ARCUS


ウルフチームより1988年5月に発売


ウルフチーム第2弾

「アークス」は、1988年にウルフチームが発売したロールプレイングゲームである。ウルフチームは日本テレネットから分離した会社であるが、その第1弾が「YAKSA(ヤシャ)」。このゲームはかなりバランスの悪いソフトであった。最空、伊織という2人のキャラクターを使ったアクションロールプレイングゲームなのだが、アクションゲーム部分が非常に難しく、楽しむ以前にストレスがたまるという・・。「やはり、デモと音楽だけの伝統はテレネットから変わっていなかったのね!」と納得させるだけの要素を十分にもっていた。余談だが、雑誌コンプティークで山下章先生がヤシャをすはらしいと絶賛していたのは、何だったのか、と今更ながら思うのだが・・・(きっとウルフの人と仲が良かったでしょうね)。
そんなこともあり、この「アークス」も「ダメかなぁ・・」と期待半分、不安半分のソフトであった。「アークス」の宣伝文句は「ヤシャ」と違って、この時期珍しい3Dタイプのロールプレイングゲーム。しかもドラマチックなビジュアルシーンが多数というものだった。


ゲームの特徴

このゲームにはいくつか特徴がある。それは「決まったキャラクターを演じる」「経験値やレベルが見えない」「武器が変えられない」といったものであった(レベルは内部的にも存在しないかもしれない)。
この時期、パソコンのアドベンチャーゲームやロールプレイングゲームに、新たな潮流がみられるようになった。映画のようにすべてを設定された主人公、イベントや筋道はすべて設定され、そのイベントを見るために、自分が主人公に扮してゲームをプレーする・・そのゲーム中に、レベルをあげて怪物を倒すという、昔のロールプレイングではメインであった行為がおまけのように入っている。「次のイベントをみるためにココにいって」「次はココにいって」とよく言われる「お使いゲーム」だ。
アークスもそうだが、お使いタイプのゲームになると、ストーリーやキャラクター、世界観の設定が貧弱だと、とんでもなくつまらないゲームになる。その点、このアークスはどうだったのだろうか。


キャラクター

テレネットといえば、音楽とデモ、グラフィック。これは昔からの伝統だった。ウルフチームも、「ヤシャ」を見る限り、それが十分に引き継がれていることは立証された。そしてアークスにもそれは生きている。個人的にアークスのキャラクターの絵は好きであるし、世界設定もなかなかよくできていると思う。アークスのキャラクターは6人。ジェダ・チャフ(主人公)たちは、「人間が火、水、土、風の4つの精霊たちの力を忘れた時に起きた異変を正す」という目的に向かって冒険を進めていくのである(ちなみにゲーム当初はこの目的は明確ではないが、序々に明らかになる)。 それぞれのキャラクターを紹介しておく。

ジェダ・チァフ
18歳。父は騎士という地位を捨てて、きこりに転身した。なぜそのようなことになったのか答えを求めて旅にでるところから、物語が始まる。愛用の武器は両刃の大剣、鋼の大ヨロイ、鎖かたびら、鋼の小手、バンダナ。パーティーのリーダーで、熱血漢。曲がったことが大嫌い。完全な主人公タイプ。戦闘では力があるので頼りになる。
エリン・ガーシュナ
17歳。見かけは大人っぽい。酒好きでおまけに酒乱。酒乱で暴れているところをジェダたちに拾われる。戦闘でもジェダに次いでけっこう強い。
トロン・ティア
ホビット。ドロボウ出身だけあって、宝箱をあけたりするときに大いに役に立つ。攻撃力は小さい。ジェダが一番最初に出会う人物。地味なおっさんだが、けっこうパーティには溶け込んでいた。
ディアナ・フィレリア
耳のとがったエルフ。能力的にはすべて平均的なオールラウンド。非常に気品があり、思慮深い。
ピクト・ピヨント
ハーフリング。エルフと人間の子供。好奇心はあるが、弱いので戦闘では役に立たない。もっとも、神器を持たせればそれなりに活躍する。妖精の声が聞える。次回作に向けてキーになるキャラ。
ヴィド・シア
昔から魔法を研究してきた魔学者の末裔。薬の知識の豊富さでは誰にも負けない。薬を調合できる。実は役人。

全員が美男美女という最近のゲームと違って、老若男女、個性のあるキャラを集めている。このあたりは筆者は大好きなのだが。
個性あるキャラたちを存分に活かすため、アークスの序盤は、仲間集めから始まる。
最初は主人公のジェダ1人だけなのだが、さまざまなイベントで仲間が増えていく。強い戦士と組んで神器を盗もうとするトロンティア、酒場で大暴れしているところを助けたらなぜか仲間になってしまうエリンなど・・特にピクトの母との分かれの場面はシリアスで泣けてくる(音楽もいい)。一人一人仲間が増えていくのは、そのキャラクターの個性をアピールするのにも十分効果があり、5人分のイベントが次々に起こっていく序盤は、圧巻である。(88のビジュアル中心のロールプレイングの中でもトップクラスの出来の良さだと思う)
残念ながら、キャラクターが集まってしまったあとは、ビジュアルシーンやキャラクター同士のやりとりというのが少なくなってしまって、もったいなかった。もう少しキャラクター同士が絡んでいくと、もっと盛りあがったと思うのだが・・。


レベルアップのないロールプレイング

アークスの最たる特徴。それは、ロールプレイングなのに、レベルという概念が存在しないことだ。ブラックオニキス以来(ウィザードリィ以来)、ロールプレイングといえば、敵を倒し経験値をあげ、レベルをアップして自分のパラメータを増やしていくことだった。別に経験値を貯めていくゲームがロールプレイングゲームだという定義はないが、それまでのゲームの経緯から当たり前になっていたのだ。プレーヤーは経験値を得て強くなり、ゲーム中で無敵となっていく主人公を見て、その世界を征服したような一種の快感を味わっていたと思う。だが、アークスはこのシステムを廃した。
アークスの内部データ(見えないデータ)としては、モンスターとの戦闘経験、トラップ発見度、ショップとの主人との好感度などがある。モンスターの経験は各モンスターについての戦いの経験度で、同じモンスターと何回も戦っていると、少しずつではあるが、戦いやすくなってくる。ただし、目に見えて強くなったとは感じられない(これがよいのか悪いのかは判断が難しいのだが、せっかくの新たな試みなので、明確に分かるようにしてほしかった)。
アークスには目に見えるパラメータもある。パラメータとしては、HP、PL(勇気)、AC(アーマークラス)、ARM(攻撃力)、ST、AG、LC(運)の7種類がある。PLは勇気で精神的な強さを示しており、この数値が大きいほど精神的に安定し、またこの値は力や器用さに影響する。また"運"も重要でこの数値が低いと、命中率が下がる。ただ、これらの値はモンスターを倒したからといって上昇するわけではない。PLは体力が回復されば自然と元に戻るし、仲間から「励まされれば」戻る(このコマンドも一風変わっていておもしろい)。また、運はそのキャラクターがつけている防具をむりやり取ろうとしたりすると下がる。パラメータの値は基本的に上昇しないので、戦闘を行って能力を上げることは考える必要はない。強い敵が出てくる後半には、いつのまにか内部のデータが上昇しているようで、自然と太刀打ちできるようになっているのだ(また魔法も使えるようにもなってくる)。
武器であるが、各キャラクターは愛用の武器があるので、変えることはできない。武器が1つも売っていないロールプレイングは非常に珍しいが、これは特にマイナスな部分にはなっていないと思う。というのも、強い武器が欲しいというほど、敵に苦戦するわけでもないからである。



ゲームの進行

アルカサス王国は中央を流れるミリュー川で東西に分断されている。ゲームの序盤は、ミリュー川西岸で仲間を集め、魔法の道具を集めることがメインとなる。アークスでは、次に何をしたらいいのか?という進行を酒屋で集めることが出来る。酒屋では、「アルドゥールの森でエルフに襲われた。その隊長が女だった」とか、「ヴィドシアが長老のうちを尋ねた」とか「耳のとがったガキがボロボロのかっこうで歩いていた」とかかなり具体的な情報が流れているので、自分でそれを整理して次の行動に移っていくのである。
アークスのダンジョンはすべて3D形式。場所を移動するには、地名を指定することで移動することができる。ダンジョン以外はすぐに移動できるので楽だ。3Dダンジョンもいろいろな形態があり、特に前半の塔をグルグル回っていくシーンなどは斬新な感じがした(ただ、上へ上へと登っていくだけなのだが、きちんと景色が360度変わる)。
後半に進むと、大きなダンジョンが4つあり、それぞれに魔法の精霊がおり、この精霊にあうと魔法を使用することができるようになる。魔法はその組み合わせで計21種類も使うことが出来る。1人に1つの魔法の道具を持たせ、複数のメンバーを使って魔法を合体させるというアイデアがあり、これがなかなかおもしろい。魔法によっては一発で相手を殺す魔法などもあり、使い方を工夫すればゲーム進行がずいぶんと楽になる。魔法を使うと勇気の値が減少する。こんなときはみんなで「励ます」をしなければならない。なんとも「間抜け」な感じもするのだが、「アークス」らしいといえばそうかもしれない。ただ、魔法は音だけでグラフィックがないので、ちょっと寂しい感じがした。


極悪ダンジョン

ゲームの後半では、精霊に会うためにひたすらダンジョンを探索しなければならない。しかも、そのダンジョンは筆者が久しぶりにみた極悪ダンジョンだった。「惑星メフィウスの砂漠」と聞いて身の毛もよだつ人は何人いるだろうか。何もないだだっ広い砂漠を、たった一場面のイベントのためにひたすら歩きつづけなければならない。アークスはこの繰り返してはならない「禁断の扉」を破ってしまった。
アークスの後半に出てくる2つの「砂漠」と「氷河」。なんと100×100のマスのうちどこかに下におりる階段がある。10000マスの中から探すという恐ろしい暴挙である。唯一の救いは「惑星メフィウス」よりも描画は早いので、1画面1画面はテキパキと進むこと。しかし、やっていられない・・・(筆者はやったけど)。 なんとか極悪ダンジョンをくぐりぬけ、最後のドラゴン山で火の精霊と出会い、ファイナルボスと戦えば終了となるが、エンディングはあまり感動がなかった。


音楽

アークスの音楽はなかなかすばらしい。短いフレーズながらも、メロディアスで聴いていて飽きない。音色はテレネット音楽からの使いまわしで残念だが。メロディ+ベース+コードのアルペジオという単純な構成の音楽で、FM音源のテクとしても、左右にパンを振ってディレイ(タイミングを遅らせる)をかけているだけなのだが・・・そのずらし方のタイミングが実に絶妙だ。宇野正明氏はピアノかオルガンをバンバン鳴らして曲を作っていたという話だ。


最後に

ウルフチームのゲームの中で、テレネット時代から考えても、「アークス」ほどビジュアルシーンが決まっていたゲームはないと思う。特におもしろいと感じるのは、序盤の仲間集めである。このビジュアルシーンと演出はとてもドラマチックで、オープニングデモの「ドラマはRPGを覚醒させる!」という文句は伊達ではないと思うのだ。しかし、この部分で十分にユーザーのハートをつかんだはずなのに、後半は急激に失速してしまう。これは後半にイベントらしいものがロクにないという点にある。せっかくキャラクターをここまで活かしたのに、後半に全然生かしきれていない(たとえばピクトなどはただでさえ邪魔者扱いなのに、精霊の声を聞くことぐらいしかない)のである。後半の広いだけの極悪ダンジョンがさらに泥を塗り、頼みの魔法システムもそれを支えるだけのインパクトやおもしろさがない。これは、単に開発期間の問題や、容量的の問題だったのだろうか。ウルフチームが開発期間を延ばしてまで、ユーザーが楽しめるゲームを作ろうともっと考えたのならば、あれだけの前半を作った開発陣で、後半がこんなに失速するはずはないと思うのだ(発売前に会社が倒産してしまうかもしれないが)。非常に残念である。ちなみに、MSX版(かは分からないが)のアークスでは、最後にヴィドが裏切り仲間を殺しまくるという壮絶なエンディングが待っているそうで、こちらの方がおもしろかったかもしれない。ただ、次回のアークス2にどのように繋がるのかは謎である。

ビジュアルとストーリーの面ばかり述べてしまったが、肝心のシステムについても触れていこう。アークスは宣伝文句で「レベルアップや経験のような肉体的な成長はない」ことを1つのウリとしていたが、これは苦心して作ったビジュアルシーンを、プレーヤーに集中して見てもらうために導入したシステムではないかと考える。無駄な経験値稼ぎは、ドラマをメインとするゲームでは冗長性を増すだけである。たまたまこのアイデアが「成長システム」となって宣伝文句になったのではないかと勘ぐってしまう。というのも、このシステムがそれほど有効に機能しているとは思えなかったからである。成長システムがもっと洗練されていたならば、後半の失速を十分補える要素になっていたかもしれないのだ。
メインをビジュアルやストーリーで勝負するのは別に構わない。しかし、これは「パソコンゲーム」だ。映画やアニメではない。だから、ゲームとして純粋に楽しめるシステムやアイデアが根底としてしっかりしていれば、純粋に「ロールプレイングゲーム」として楽しめたはずだ。そこが十分に練られなかったのも非常に残念だ。



アークスを作った人

アークスのシナリオ、制作担当は林浩樹氏で、「ファイナルゾーン」制作当初からのチームのメンバーである。林氏はウルフチームでロールプレイングゲームを作るのならば、新しい表現方法を取り入れたいと思っていた。
まず、自分が冒険している(正面から見ている)という感じを出すのには、やはり3D形式が一番よいという考えから、3D型に決定。また、3Dタイプの元祖ロールプレイングゲームである「ウィザードリィ」は、ほとんどゲームシステムは完璧なものなので、下手にこの要素をいじらずに、新しい試みを入れることにしたらしい。また、敵を倒して経験値を上げるという方式は、昔のボードゲームのダンションマスターがやっていたことで、人間でもできることをコンピュータにやらせることはない。そこでキャラクターを「アナログ的」に成長させていくことにした。コンピュータならば相当細かい管理が可能なはずであるから・・。
そして、プレイヤーの思い通りにならないように、キャラクターのすべての能力を決定してしまう。ひとつのワクの中でキャラクターの個性を表現した方がプレイヤーの側でも新鮮な驚きがあるのではないか、という考えに基づき、6人のキャラクターが出来あがったのである。

<参考:テクノポリス87年>

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