フロッピーディスクのデジタル保存(マイグレーション)

フロッピーディスクで発売されたゲームを長期的に保存していくための方法の一つとして、ディスクに記載されている磁気データのデジタル保存があります。
一般的に「吸出し」や「イメージ化」と言われていますが、海外のゲーム保存団体では正確かつ高度なマイグレーション技術が新しく開発され、我々もその手法でデジタル保存を行っています。
しかし「既にイメージ化のソフトやツールはあるし、今更なぜ?」という考えの方も多いと思います。

一般的に使用されている既存のイメージ化ツールはエミュレータでの使用に適したイメージファイルを作成することのできる非常に有用なツールです。
当時のパソコンが物理的劣化により消失していく中、エミュレータは非常に有用であり、国産PCのエミュレータを開発されている方々は非常に多くの努力と研究によって、すばらしいエミュレータを開発されています。
そのエミュレータでの使用を前提とした高度に洗練されたイメージフォーマットとそのイメージ化ツールは非常に有用ですが、一方でイメージ化の過程で情報が欠落してしまう部分があります。
その一つがプロテクトと言われる特殊フォーマットの情報です。

当時のフロッピーディスクで供給されていたゲームの多くはコピー防止の技術としてプロテクトが施されていました。
パソコンに内蔵されているフロッピーディスクコントローラでは読み込むことが出来ても、書きこむことが出来ない特殊なフォーマットを行い、それを動作中にチェックすることで本物かコピーかを判定していました。
それらのソフトをコピーしようとしても、そのような特殊なフォーマットは再現出来ませんでした。
そのため当時主流であったコピー方法は「ファイラー」や「パラメータ」などと呼ばれるフォーマットをチェックする部分のプログラムを書き換えることで対応する方法でした。
これらによって書き換えたディスクはほぼ通常のフォーマットとなるため、イメージ化が容易でエミュレータでの使用に適しています。

では、書き換えが行われていないオリジナルのディスクからイメージ化を行った場合はどうでしょうか?
当時のプロテクトとコピーの技術は「イタチごっこ」の関係で急速に発展してしまい、既存のイメージ化ツールではそもそも特殊フォーマットであることを判定できないようなプロテクトが施されているものも多く認められます。
これらのディスクからイメージ化を行ない、エミュレータなどで使用した場合はプロテクトのチェックによって正常に動作しないものがほとんどです。
そのためエミュレータでの使用を前提にしたイメージ化の場合、多くはプログラムの書き換えを行いノーマルフォーマットに変換したディスクからイメージを作成します。

しかし、このような「海賊版」しか後世に残せなくてよいのでしょうか?
「海賊版」ディスクのイメージ化を行なっても、特殊フォーマットの情報やチェック部分が書き換えられた「偽物」の情報しか得られません。
プロテクトなどの情報も含めてフロッピーディスクに書きこまれている全てをマイグレーションするため、我々は「KryoFlux」と言われる特殊なFDC(フロッピーディスクコントローラ)を利用してデジタル保存しています。
この方法で得られた生(raw)情報から、IPF(Interchangeable Preservation Format)と呼ばれるデジタル保存用のイメージファイルを作成しています。
もちろんこの方法のみでは保存不可能な情報もあり(複数のインデックスホールを持ったディスクや磁性体表面に故意に物理的損傷をさせたものなど)、当然実物を保存すること(プリザベーション)も大切です。
少しでも正確な情報を後世に残したいと思います。

ゲーム保存協会 福田

KryoFlux: http://www.kryoflux.org/ (英語)