イベント【フロッピーディスク資料の問題点】実施報告

今回のイベントはゲーム保存協会理事長のジョゼフが登壇しました。

フロッピーディスクに焦点を絞って2時間じっくりと行われた講演の様子をご報告いたします。
かねてより、ゲーム保存協会では古いゲーム資料、なかでもフロッピーディスク資料に対して強いこだわりを持って活動を展開していました。
色々な資料の中でなぜフロッピーにこだわるのか、これに丁寧にお答えしながら問題点や実践的なテクニックをお伝えしたのが今回のイベントです。

まずはフロッピー資料の問題点を知るためにも、フロッピーディスクとは何なのかを解説。
フロッピーに記録されたゲームを遊んだことがある人でも、フロッピーが何でできているのか、どういった仕組みになっているのか、意外と知らない事も多いはず。

講演では磁気部分のペラペラの円盤がどんな素材でどんな構造になっているかといったマニアックなお話しや、データが書き込まれた時の様子を写した電子顕微鏡写真などレアなものなどをご紹介。良く知られる3.5インチフロッピーディスクだけでなく、5.25インチ、8インチ、あるいは3インチやクイックディスクといった仲間たちも現物を展示し、ディスクドライブなどとあわせて、時には分解した姿をお見せしながら、特徴や弱点など、わかりやすくご説明。

知っていそうで知らなかったフロッピー徹底解剖をした後、いよいよ文化保存に関するお話しに移りました。
あまり知られていませんが、ゲームに限らず、フロッピーは大切な文化的資料として保存研究の対象になっています。
ゲーム保存協会のニュースでも以前お伝えいたしましたが、例えば大英図書館などで、20世紀の偉大な作家たちの書簡などフロッピーに保存されている情報が多数あります。あるいは西陣織のような伝統工芸を継承するうえで欠かせない機械制御の要としてフロッピーが使われていることもあります。

こうした重要な局面で、これらフロッピーの情報を学術的レベルで後世に残す必要が出てきているのです。
デジタルフォレンジックという言葉をご存知でしょうか?あまり聞かない単語かもしれませんが、例えば裁判の証拠として提出されたときにきちんと認められるような、デジタルな資料が偽りのないオリジナルであることを正しく証明できる技術のことです。
ゲーム保存協会では、ゲーム資料継承について、現物を正しい形で残していくことと同時に、フロッピーなど劣化消滅という時限付きの資料群については、客観的に証明できる情報、デジタルフォレンジックの考えにのっとった正当な情報を残すことにこだわっています。

ただ自分が遊ぶためにコピーをする、というのではなく、学術的研究資料として将来的に活用ができるよう、今手元に残された資料の“すべての情報”を残していくのです。
これは一般的によく言われるイメージ化やコピーとは全く異なるアプローチです。
ただ遊べるというだけでは私たちの基準では不完全なのだということを、具体的な例も出しながらご説明。
文化財としてゲームが生み出されたその最初の瞬間とまったく同じ形がどんなものだったのか確実にのこす、つまり、どんな風にデュプリケートされどんなプロテクトがかけられておりバージョンごとにどんな違いがあったのかなど、すべての情報をきちんとのこすことが私たちの資料保存活動の最低基準です。

現在の私たちが大昔の音楽や美術を芸術品として扱うように、将来の人がゲーム資料を文化財として研究する日がきたとき、きちんとした資料がなかったら、いったいどうなるでしょう。
ゲームは現在、海外ではすでに文化財として公共の美術館での展示などが開始されています。未来の文化研究者たちがゲームを研究する日はきっと訪れるはずですが、フロッピーディスクはその日までもたないのだという悲しい事実を丁寧にお伝えしました。

日本のゲーム文化を残すためには、今すぐにここ日本で、100年後の研究可能性まで見越したハイクオリティな情報保存技術で文化財継承のために作業を行う必要があります。
ゲーム保存協会は、海外の美術館、ゲーム資料の保存に取り組む国際団体、資料保存のための特殊な研究を進める研究者たちと協力し信頼性の高い作業工程を作っていますが、日本の場合は気候の影響からカビ被害がとても多いという特殊な事情もあります。

今回の講演で、日ごろご要望の多いフロッピーのカビ掃除の方法について、実際に活用できるテクニックとアイテムをご紹介しました。
実は現時点で、フロッピーのカビにどう対応するのがベストなのか、固定した意見はありません。世界的にフロッピーのカビとり技術を専門に研究している例はきわめて少ないのです。

団体内で試行錯誤しつつ各方面から情報を集めた結果としては、99%以上のイソプロパノールという薬品(アルコール)とシャモア(元々鹿の皮)を使った掃除方法が一番安全で確実です。講演では実際の作業時の注意や、他の方法をとる場合の注意事項など、フロッピーの素材について解説しながら丁寧にご紹介。イソプロパノール以外のアルコールでは場合によって磁気部分を守るコーティングがはがれる可能性があること、一般の綿棒ではコーティング上に傷をつけてフロッピー破損の原因になってしまうことなど、お伝えしました。

理事長ジョゼフの熱い想いが伝わる2時間、ご参加いただいた皆様には、ご来場本当に感謝いたします。
Twitterでのご声援も沢山お寄せいただき、本当にありがとうございました。

一枚でも多くのフロッピーがきちんとした形で残され、将来の文化研究がより豊かで確実なものとなるように、ゲーム保存協会は地味で根気のいる作業を続けています。

ぜひ、こうした資料劣化の実情を多くの方に知っていただきたいと思います。

もし、フロッピーのカビ掃除や細かな情報の分析等、必ずしも楽しいとはいえないながら将来的に考えて非常に意義のある作業にご協力いただける方がいましたら、状況に合わせて随時江戸川にあります団体本部でメンバーらから直接お話しをさせていただくことなど出来るかと思いますので、ぜひ団体までご一報をください。

ゲーム保存協会 辻

イベント【フロッピーディスク資料の問題点】のお知らせ

日ごろNPO法人ゲーム保存協会の活動に関心をお寄せいただいております皆様に、イベントのお知らせをいたします。
80年代のゲーム作品が記録されるメディアとして数の多いフロッピーディスクですが、現在、このフロッピーディスクの劣化が深刻化しております。特に今、5.25インチフロッピー等現在では全く使われなくなってしまった磁気メディアに対するさまざまな知識や技術が求められています。こうしたメディアに記録されたゲーム作品を後世に残すためには非常に特殊で難しい研究が必要で、根気のいる作業の連続となります。
今回はこのフロッピーディスクについて、技術的な話しを中心に解説いたします。
フロッピーの何が難しいのか、そしてそれらフロッピーをどうすればよいのか、専門的な内容をお伝えして行きますので、ご興味ご関心ある方はぜひ会場にお越しください。

日程:
2012年5月20日(日)
13:30開始(16:00頃終了予定)

場所:
篠崎文化プラザ・第二講義室
http://www.shinozaki-bunkaplaza.com/

参加無料・予約等なし

ゲーム保存協会 ルドン

フロッピーディスクのデジタル保存(マイグレーション)

フロッピーディスクで発売されたゲームを長期的に保存していくための方法の一つとして、ディスクに記載されている磁気データのデジタル保存があります。
一般的に「吸出し」や「イメージ化」と言われていますが、海外のゲーム保存団体では正確かつ高度なマイグレーション技術が新しく開発され、我々もその手法でデジタル保存を行っています。
しかし「既にイメージ化のソフトやツールはあるし、今更なぜ?」という考えの方も多いと思います。

一般的に使用されている既存のイメージ化ツールはエミュレータでの使用に適したイメージファイルを作成することのできる非常に有用なツールです。
当時のパソコンが物理的劣化により消失していく中、エミュレータは非常に有用であり、国産PCのエミュレータを開発されている方々は非常に多くの努力と研究によって、すばらしいエミュレータを開発されています。
そのエミュレータでの使用を前提とした高度に洗練されたイメージフォーマットとそのイメージ化ツールは非常に有用ですが、一方でイメージ化の過程で情報が欠落してしまう部分があります。
その一つがプロテクトと言われる特殊フォーマットの情報です。

当時のフロッピーディスクで供給されていたゲームの多くはコピー防止の技術としてプロテクトが施されていました。
パソコンに内蔵されているフロッピーディスクコントローラでは読み込むことが出来ても、書きこむことが出来ない特殊なフォーマットを行い、それを動作中にチェックすることで本物かコピーかを判定していました。
それらのソフトをコピーしようとしても、そのような特殊なフォーマットは再現出来ませんでした。
そのため当時主流であったコピー方法は「ファイラー」や「パラメータ」などと呼ばれるフォーマットをチェックする部分のプログラムを書き換えることで対応する方法でした。
これらによって書き換えたディスクはほぼ通常のフォーマットとなるため、イメージ化が容易でエミュレータでの使用に適しています。

では、書き換えが行われていないオリジナルのディスクからイメージ化を行った場合はどうでしょうか?
当時のプロテクトとコピーの技術は「イタチごっこ」の関係で急速に発展してしまい、既存のイメージ化ツールではそもそも特殊フォーマットであることを判定できないようなプロテクトが施されているものも多く認められます。
これらのディスクからイメージ化を行ない、エミュレータなどで使用した場合はプロテクトのチェックによって正常に動作しないものがほとんどです。
そのためエミュレータでの使用を前提にしたイメージ化の場合、多くはプログラムの書き換えを行いノーマルフォーマットに変換したディスクからイメージを作成します。

しかし、このような「海賊版」しか後世に残せなくてよいのでしょうか?
「海賊版」ディスクのイメージ化を行なっても、特殊フォーマットの情報やチェック部分が書き換えられた「偽物」の情報しか得られません。
プロテクトなどの情報も含めてフロッピーディスクに書きこまれている全てをマイグレーションするため、我々は「KryoFlux」と言われる特殊なFDC(フロッピーディスクコントローラ)を利用してデジタル保存しています。
この方法で得られた生(raw)情報から、IPF(Interchangeable Preservation Format)と呼ばれるデジタル保存用のイメージファイルを作成しています。
もちろんこの方法のみでは保存不可能な情報もあり(複数のインデックスホールを持ったディスクや磁性体表面に故意に物理的損傷をさせたものなど)、当然実物を保存すること(プリザベーション)も大切です。
少しでも正確な情報を後世に残したいと思います。

ゲーム保存協会 福田

KryoFlux: http://www.kryoflux.org/ (英語)