著作権法における引用について

著作権は私たちにごく身近な権利だが、その詳細については意外なほど知られていない。ネット上では著作者の知らないところで著作物が勝手に利用されているが、あまりにもたくさん目にするので、それが権利侵害をしていることに気いていないことも多い。例えば、漫画の一部を切り取ってセリフを書き換えて「面白く」した投稿をSNSでは頻繁に目にするが、必ずしも著作者がそれを容認しているとは限らない。

しかし、著作者の許諾を得ていない利用だからといって、必ずしも権利侵害とは限らない。文化庁はサイトにて、著作物の自由な利用(著作権法30条〜47条8)の概要を公表している。身近なものとしては「私的複製」があり、例えば購入した書籍の1ページを複写して私的に利用することは権利侵害とはされない。もう一つ、よく用いられながら、その実際の利用にあたっての条件があまり知られていないのが、「引用」である。著作権法の条文を引用しよう。

著作権法 第32条(引用)
1.公表された著作物は、引用して利用することができる。この場合において、その引用は、公正な慣行に合致するものであり、かつ、報道、批評、研究その他の引用の目的上正当な範囲内で行なわれるものでなければならない。

このように、引用とは、「公正な慣行に合致」していれば、著作者の許諾なしに、「報道、批評、研究その他」に用いることができる。それでは、具体的にどのような利用が引用に当たるのか。数々の裁判を経て、次の6つが主な原則と言われている。

1)引用するもの(以下、本文)がメインの内容であり、引用されるもの(以下、引用部分)がサブの関係にあること
2)引用部分と本文の区別が明確であること
3)引用する必然性があること
4)引用にあたり改変しないこと
5)引用部分の出典を明記すること
6)引用部分は公表されているものであること

これらの概念は、著作物にまつわる権利のうち「著作者人格権」で多くが説明できる。著作物とは法的には「思想又は感情を創作的に表現したものであって、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの」(2条1項1号)と定義されるが、この「思想又は感情」を損なうことを禁ずるのが著作者人格権である。上の各項は著作者人格権に属する次の権利を保護するためのものと解釈される。

1、2、4 → 同一性保持権 (無断で著作物を改変されない権利)
3 → 名誉声望保持権 (著作物を適切な場所に展示するなど、社会的評価を守る権利)
5 → 氏名表示権 (著作物が自己のものであることを表示する権利)
6 → 公表権 (無断で著作物を公表されない権利)

このうち3の「引用する必然性」は裁判でよく争われる。一例を挙げるなら、藤田嗣治絵画複製事件(東京高裁昭和60年10月17日判決)で、これは近代日本絵画史をテーマとする書籍中に無断で藤田嗣治の絵画が使われたとして著作権侵害が争われた事件である。裁判所は判決中で「美術著作物が言語著作物の記述に対する理解を補足し、あるいは右記述の例証ないし参考資料として、右記述の把握に資することができるように構成されており、美術著作物がそのような付従的性質のもの」が、本件のような著作物における正当な引用であると定義している(ただし裁判では当該書籍はそれを満たしていないと判断されている)。

このように引用の定義の多くは判例によって定義づけられているため、一般にはわかりづらく、利用者ばかりでなく著作権者も何が引用に当たるのか理解していないことがある。そのため、正当な引用にも利用料を請求するというケースが多く見受けられる。又、日本では慣習的にトラブルを避けるために、正当な引用であっても事前に権利者の許諾を得ようとすることが多いが、本来は正当な目的のもとに利用するなら権利者の許諾はいらないことは、先に提示した文化庁のサイトにもある通りである。

当協会が今回作成したドキュメンタリー映像内でのゲーム画面の引用は上記6項目を遵守し、引用動画に著作者の権利表記をした上で引用としている。具体的には次のような基準を設けた。

・引用映像には権利者と作品名を明示する →原則2、5
 ※言及されている当時の作品の著作情報(タイトル画面に提示されている著作情報)を優先
・引用映像は最長で120秒以内あるいは作品全体の10%以内とする →原則1
・前後の文脈から必然性のある映像を引用する →原則3
・引用映像は発売および公開された作品からのみとし、改変を行わない →原則4、6

これらは過去の引用の例に則ったものであり正当な使用であると当協会は判断しているが、先に述べたとおり、著作権法における引用の定義は、その多くが判例に依拠しているため、判例にないものについては争いが生じる余地がある(実体法を重んじる日本の法体系に反するという批判もある)。もし過去の判例にない、あるいは、判例に反する引用を行っていると考える権利者は、当協会までご連絡をいただきたい。誠実に対処する所存である。