※【2020年12月発行 GPS News vol.12掲載】本記事はゲーム保存協会の過去の活動を知ってもらうことを目的とし、当時の内容で掲載しています。
ゲーム音楽に多くの影響を与えた、ゲーム保存協会の名誉会員・古代祐三さんが当時使っていた「FM音源」とは一体どんなものだったのでしょう?当時を振り返りつつ、エッセイ形式でお届けします。
80年代のマイコンファンなら、みんな大好きエフエム音源。
FM音源は、音の三要素(音量、音程、音色)全てを再現できる画期的なシンセサイザーです。ジョン・チャウニング博士という人が論文にして、その筋のヤマハ社が実用化したスゴいもの。
何がスゴイかって、FM音源は、オペレータというサイン波発生器の別のサイン波をかけ合わせて、少ないパラメータで複雑で多彩な波形(音色)を作り出すことができる。得意不得意はもちろんあるけれど、ピアノ、ブラス、ストリングスからベース、ドラム、はたまた人の声っぽい音まで、様々な音を出すことができるのがスゴイ。
マイコン最初期(80年代初頭)はBEEPでピーという程度の音しか鳴らせなかったのが、矩形波が出せるPSGという音源チップが登場して、音量や音程が自由に出せるようになったけれど、どれも同じ音色でした。同じ音程を同時に鳴らすと波形が打ち消されて音が消えちゃったりもするしね。
FM音源は「音色を作れる、扱える」というのが画期的だったのです。
音色が扱えると、同じメロディーでも音楽に格段に変化がつけられますね。ピコピコ音とは違うぜヘイヘイ。
FM音源は最初はシンセで使われていました。有名な初音ミクのデザインの元になったYAMAHA DX7もその一つで、80年代の楽曲によく使われています。
シンセでは小さい液晶画面でボタンをカチカチ押して音色をエディットするのがすんごく大変なので、YAMAHAさんはMSXと連携して音色をいじれるシステムとか出していました。
アーケードゲームなどでもFM音源チップが使われたものが増えていきました。最初期では海外のマーブルマッドネス(1984年)とか、国内だと戦場の狼(1985年)あたりが嚆矢らしいですね。
FM音源はパソコンにも搭載されるようになります。特に1985年1月発売のPC-8801mkIISRに標準搭載された影響が大きかったと思います。
SRが売れたのはFM音源と関係あるのか?というと、これはあるある!超あります!
88SRって、88mk2がとにかく遅い(画面表示のためにCPUが全力を出せない)という致命的な弱点を改善した上で、ALUによる高速描画とアナログRGB(512色中8色)とFM音源をくっつけたマシンです。
mk2 – 遅くなる要素 + すてきで3倍速いグラフィック + FM音源 = SRだいたいこんな感じです。
ただ、ハードがいくらよくてもソフトがよくないとなかなか普及しないですよね。
ところがのっけからゲームアーツが「テグザー」(1985年)で度肝を抜いたわけです。
テグザーの音楽は五代響さん。
ご存じのとおり、プログラマでもあります。
SRも出たばかりの頃はFM音源の制御方法もこなれてなくて、内蔵音色とか耳に痛い音色とかが多く使われていたように思います。テグザーでもゲーム中はFM音源3音だけしか使ってない (SSGは効果音専用)なんですよね。
その後、颯爽と登場したのが「ザナドゥ・シナリオⅡ」と「ロマンシア」)!我らが古代祐三先生でした。特にロマンシアのオープニングは、それまでの88SRで流れていたものとは数次元違うレベルで奏でられる
ロック調の曲で、「やられた!」という印象が強かったです。
翌年発売された、「イース」と「ソーサリアン」ではSSGも効果的に使ってトドメを刺されます。もうみんなFM音源にメロメロさ!
ザナドゥ・シナリオⅡもロマンシアも、オープニングは別としてゲーム中はFM音源3音だけが使用されており、SSGはやっぱり効果音専用でした。
それがイースやソーサリアンで新しいドライバ(いわゆるMUCOM)をひっさげて、SSGも効果的に使うようになってきたのです。
FM音源でできることはサウンドドライバの作りこみ(機能)で大幅に変わります。より複雑な表現をするために、ドライバは次々に改良を加えられ、どんどん高機能になっていきます。
古代さんがそれまで使っていた同人のドライバSPLITを参考に、ファルコムで木屋さんが独自実装で作ったのがMUCOM。古代さん自身でもドライバを作るようになり、MUCOM88と名づけられ、徳間書店から市販化された時にMusic LALFと名前を変えて進化していきました。
さらに1987年10月に発売されたPC-8801FA/MAでは、より強化されたFM音源、YM2608(OPNA)が採用され、発音数が強化。ADPCMによるデジタルサンプリング(音声の録音・再生)も使用できるようになりました。これに合わせて従来機でも同等の音が出せるオプションボード、みんなだいすき「サウンドボードⅡ」が発売されました。
サウンドボードⅡも最初のうちは対応タイトルが少なくて、使い方もパッとしませんでした。サウンドドライバがこなれておらず、せっかくのADPCMも効果音がサンプリングで鳴るくらいの使われ方でした。
そこで我らが古代さんがまたまたブチかましてくれたのが「ザ・スキーム」!
ADPCMばりばりのドラムずんどこ、オケヒがジャン!ギターがギャーン!なわけです。
ノーマル(YM2203)音源だとサウンドボードⅡの曲とはまったく違う曲が鳴る、というのも珍しいところです。
この頃から、時代は徐々に16ビット機へと移行していき、またそれまで高価だったMIDIもDTMとして手頃な価格帯で扱えるようになっていきました。
MIDIの楽曲のクオリティには驚かされましたが、一方でMIDIに触れることで、逆にFM音源の音色の多彩さ、音色づくりの自由度などの魅力を再確認することができたように思います。
令和の時代になっても、現在でもFM音源の楽曲が好き!というファンは多いと思います。30年以上経っても古さを感じさせない魅力を持った音源であると言えましょう。
文:UME-3、編集・協力:ORION80・とまと