Galactic Wars 1

日本ファルコムの初作品、『ギャラクティック・ウォーズ1(GALACTIC WARS 1)』の保存

ゲーム保存協会は、文字通りゲームの保存を目的として日々活動しています。保存の対象はアーケードゲーム、家庭用ゲーム、PCゲームなど、幅広くあらゆる範囲にまで及びますが、そんな中でも今回は日本のPCゲームの黎明期に日本ファルコムから発売された『ギャラクティック・ウォーズ1(GALACTIC WARS 1)』の保存についてご紹介します。

■日本ファルコムの歴史

東京の立川に居を構える日本ファルコムは、1981年に「コンピューターランド立川」として設立され、アップル製品を中心にコンピューター製品を販売するショップでした。その翌年には初めて社独自のパーソナルコンピューターゲームの販売を開始しています。1984年の『ドラゴンスレイヤー』や1985年の『ザナドゥ』、そして、1987年の『イース』『ソーサリアン』と言った数々のゲームのヒットでPCゲーム界の雄として君臨し、近年においては『英雄伝説』の軌跡シリーズが有名な、老舗のコンピューターゲーム企業です。

■『ギャラクティック・ウォーズ』とは?

その日本ファルコムの記念すべき初作品は『ギャラクティック・ウォーズ1』と言うSFシミュレーションゲームでした。

『ギャラクティック・ウォーズ1』の制作者は、当時コンピューターランド立川に客として足繁く通っていた木屋善夫氏。後にドラゴンスレイヤーシリーズの作者として有名になり、当時のPCゲーム系雑誌などで”スター・プログラマー”としてもてはやされ、人気となったその人です。

『ギャラクティック・ウォーズ1』は、木屋氏が趣味でパソコンのプログラムを弄っていた中で生み出されたゲームの一つで、コンピューターショップだったファルコムがそれを製品化して発売すると言う形で世に送り出されました。ちなみに、日本ファルコム黎明期のソフトのほとんどはこうした常連客による”持ち込み”であり、社として本格的にゲームソフトを開発するようになるのは、自社ソフトの販売が軌道に乗ってきた1984年頃のことでした。

BASIC言語で作られた『ギャラクティック・ウォーズ1』は、まず最初にファルコムより木屋氏に貸与されたCASIOのFP-1100で発売されました。 その後NECのPC-8801、PC-9801と順次発売されましたが、当時  無名のいちショップに過ぎないメーカーによって製造・販売されたパッケージの数は、当然のことながら極僅かなものであったため、今現在では中古ショップやネットオークションなどで見かけることのほとんどない、極めて希少価値の高い作品となっています。

■『ギャラクティック・ウォーズ1』の実物に巡り合うまで

そんな”レア”な『ギャラクティック・ウォーズ1』、ゲーム保存協会では、最近実物と巡り合い、保存する事に成功しました。きっかけは、筆者が制作者の木屋善夫氏と交流を持てた事でした。

なんと、木屋氏は日本ファルコムにてご自身が開発されたゲームのパッケージのほとんどを未開封の状態で所持していました。ご本人は記念のつもりで持ち続けていらしたようですが、この事が保存にとって大変有意なものとなりました。

木屋氏との交流を重ねる中で、保存活動の説明や意義などを話す機会に恵まれ、所持されているパッケージの貴重さと存在の重要さを説明しましたところ、木屋氏のご厚意によって未開封状態の『ギャラクティック・ウォーズ1』(PC-8801) を保存のためにお預かりすることができたのです。

■フロッピーディスクのデータ保存

こちらが木屋氏からお預かりしたパッケージです。

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高温多湿な日本では、まず第一に問題になるのが”カビ”になります。カビは湿気があるとフロッピーディスクの磁性体で成長しやすく、カビが付いた状態でディスクを読み込もうとすれば、データの読み取りの妨げになるばかりでなく、ディスクの破損にも繋がってしまいます。

パッケージを開封します。緊張する瞬間です。

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開いて出てきたフロッピーディスクのスリーブとマニュアルの紙は、一見するとカビもなく綺麗な状態に見えましたが、よく見ると水分を吸って乾いたときに出来るような皺がよっていて、湿気に晒されていた状態にあったことを伺わせました。

そして肝心のフロッピーディスク。一見すると状態は良いように見えましたが、平行にして見てみるとディスクそのものに”たわみ”が確認され、果たして無事に読み出せるかどうか何とも言えないと言う状態でした。また、磁性体の部分を回転させながら丁寧に見て行った結果、大きなものではなかったものの、数か所にカビと思しき物も確認されました。

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保存作業の前に、まずはカビを落とすことから始めます。カビが発見された部分に100%のイソプロパノールを塗布して、丁寧にカビを落としていきます。

一通りカビを落としたら、次はディスクの状態の確認をします。2Dのディスクは40トラックですので、データが入ることのない41トラック目の部分を読み込んでみて、物理的にディスクどのような反応が起こるのかを確かめてみます。

読み込んでみた結果、ディスクの磁性体が剥がれたり傷ついたりはしませんでした。ディスクは読み込みに耐えられる状態であることが確認されましたので、そのまま保存作業へと移ります。

保存にはクリオフラックス(KryoFlux)を使用します。クリオフラックスとは、フロッピーディスクの情報を根源から読み出すことのできるハードで、日本国産のゲームを保存するために現・ゲーム保存協会の理事長ルドン=ジョゼフ氏が開発に関わって誕生したデバイスです。
『ギャラクティック・ウォーズ1』のディスクは既に30年の年月が経過していますので、あと何度読み込める状態なのか分かりません。できれば一度の読み込みで一気に保存を完了させたいところですが、保存作業を行ってみたところ、残念ながらデータとして読み込めない部分が1か所、読み込みが正常であるか疑問のある不安定な部分が1か所でてきてしまいました。

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上の画像はフロッピーディスクの裏表の読み込み状況を可視化したもので、緑色の部分がフォーマットされたセクタ、濃い緑の部分にはゲームのデータが入っています。今回の読み込みでは濃い緑になっているべき部分の一部が青い状態になっており、読み込みが何らかの原因で阻害されていることが分かります。

ディスクを取り出し、もう一度カビのあった部分のクリーニングを行って、再度保存作業します。その結果、前回読み込みが不安定だった部分は、再度の読み込みでも全く同じ結果が出たため、正常に保存されていると判断できました。

しかし、読み込みのできなかった部分は依然読み込めないままです。あるいは原因はカビや埃ではなく、ディスクそのものにダメージがあるのかもしれない…、そんな不安を抱きながらも、祈るような気持ちで再度クリーニングし、もう一度保存作業を繰り返します。

丁寧にカビを落とすこと3度目、その結果は…

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見事読み込みに成功しました!

前の画像で読み出せていなかった青い部分が、今度は濃い緑になっています。現場に居合わせた一同が、安堵と喜びで沸いた瞬間でした。

こうして無事『ギャラクティック・ウォーズ1』のディスクは保存に成功しました。保存されたデータから、エミュレーターで遊べるようにディスクイメージへと変換することも可能です。

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このゲームは銀河系連合軍の惑星M23に第三帝国の宇宙艦隊が総攻撃をかけてきていると言う設定で、プレイヤーは連合軍α艦隊の総司令官となって惑星を敵艦隊から守ります。難易度は1~3のレベルを選択可能です。惑星(PLANET-M23)と2機の艦(FALCONとUNICON)、そして惑星に3機配備されている偵察機に指令を出して敵艦を探し出します。指令ターンには時間制限があり、メーターが円を一回転する間に指令を終えなければならず、ある程度のリアルタイム性があります。この辺りは後の『ドラゴンスレイヤー』にも通じている要素です。艦隊と偵察機には方向(360°の範囲を15°ずつの細かさで24方向へ指定)と速度(1~50)の指定が可能で、各艦が敵艦隊と遭遇すると、あらかじめ設定した攻撃隊や護衛隊の数値の下で戦闘が開始され、3機の敵艦隊を全滅させればクリアとなります。疑似リアルタイムの中で戦略性のある判断が求められるゲームで、PCゲーム黎明期の当時としては“遊べる”部類に入ります。

ちなみに、『ギャラクティック・ウォーズ1』は、起動直後にディスクのブートプログラムの部分を一度削除し、ゲーム本編が始まった後に削除したブート部分を復活させるという挙動をします。 ゲームを遊ぶために起動した後、正しい手順でゲームを始めないと、データが失われてしまいます。 ゲームのプログラムリストをコピーさせないための、一種のコピープロテクトと思われますが、かなり“意地悪”な仕掛けです。そのため、仮に開封済みのパッケージソフトを何らかの形で入手できたとしても、データ内容が無事であるかどうかは未知数であり、未開封状態の『ギャラクティック・ウォーズ1』が現存することは保存にとって、とても重要なことでした。

■ジャケットとマニュアルの保存

保存を行うのはフロッピーディスのデータだけではありません。パッケージのジャケットやマニュアルも保存の対象となります。次は、スキャナーを使ってジャケットとマニュアルの保存にとりかかります。

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紙が曲がった状態だと、スキャナーの天板と紙が曲がった部分の間で、若干の隙間が生じてしまうため、綺麗にスキャンすることができません。そのため、パッケージの紙はあらかじめ箱から取り出して、しばらくの期間、紙を伸ばした状態でファイルしておきます。

実際に スキャンを行ったのは、半年以上が経過した頃 です。半年前と比べると、曲がっていた紙は平面に近い状態になっています。
スキャンにあたって下準備をします。まずは、スキャンした画像に埃が混入しないよう、天板や周囲は専用のクリーニングキットで丁寧に拭き取ります。スキャナーの自動補正の機能を使うと、取り込んだ画像が意図しない状態に補正されてしまうことがあるため、これらの設定は全て外して生の状態で画像データが取れるようにします。 取り込み後の画像補修をしやすくするため、解像度は高めの800dpiに設定します。

スキャナーの天板上では、取り込むことができないスキャナーの端の領域部分に定規を設置し、そこにパッケージの紙を合わせます。これによって取り込んだ画像の大きさが目視で判るようになります。また、画像の背景になるように色干渉が少ない灰色の板を差し込みます。板にはカラーガイドが付いており、スキャン対象物の色褪せ具合を判別することができます。

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スキャナーの天板上では、取り込むことができないスキャナーの端の領域部分に定規を設置し、そこにパッケージの紙を合わせます。これによって取り込んだ画像の大きさが目視で判るようになります。また、画像の背景になるように色干渉が少ない灰色の板を差し込みます。板にはカラーガイドが付いており、スキャン対象物の色褪せ具合を判別することができます。

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取り込んだ画像はPhotoshopを使って修復を行います。紙に付いた傷や埃など丁寧に除去していきます。今回は幸いにもジャケットのダメージが少なかったため、大規模な修復の必要はありませんでしたが、紙の破れや色褪せなどが大きかった場合は対象物を複数用意しなければならなくなることもあります。

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修復完了したジャケット画像がこちらです。

元々の紙自体がオレンジ色であったため、本来のジャケット画像は白黒となります。
この当時のファルコムのパッケージでは機種別に使用する紙(色など)が異なっていた可能性が高いため、FP-1100版やPC-9801版はまた別の色のパッケージであったと思われます。
修復された画像を元と同じ紙に印刷をすれば、パッケージの再生も可能と言うことになります。

■終わりに

こうして、現存すること自体が稀なゲームソフトウェアの一つを、幸いにも無事保存することができました。

ゲーム保存協会では、団体に参加している協会員によって既に多くのゲームを収集していますが、それでも未だ所持していない貴重な作品はまだ数多くあります。また、こうした数多くの作品の保存を行うのは多くの手間がかかるため、限られた人数では実際の保存作業はなかなか進みません。日本の文化財であるゲームの保存に携わりたいと言う方がいらっしゃいましたら、是非一緒に活動して頂きたいと願っています。ちょっとしたご助力でももちろん構いません。もし、何らかの形で保存にご協力いただける方がいらっしゃいましたら、こちらをご覧頂けたら幸いです。

当団体では、今後も現存する”全てのゲームの保存”を目標に日々活動をして参ります。

ゲーム保存協会 金澤

※パッケージやゲーム画像などの著作権は著作者に帰属します。

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