アーキビストの仕事(カタログ編)

―ゲーム保存協会のデータベース制作の現場―

ゲーム資料の整理やデータベース制作には、現物資料の収集からデータの入力まで、想像以上の手間暇がかかります。ここでは、ゲーム保存協会が行っているアーカイブ事業の中から、データベース制作に関する一連の作業についてご紹介いたします。


■ビッグデータから資料収集まで

①データベース(ビッグデータ)

ゲーム保存協会には、日々の作業をこなすために様々なデータを登録したビッグデータが存在します。登録情報はおよそ150万件、日本のゲームに関する世界最大規模のデータベースです。

商品数全体     35万件(内、国内販売ゲームソフト:13万件程)
ゲーム楽曲     50万件(CDのトラック情報など)
連結情報      26万件(移植、続編などの関連付け)
作家・作者       6万件
その他       33万件(会社、ブランド名、機種、関連商品に紐づけなど)
____________
合計      150万件 以上の登録情報

データベース

検索結果の例(クリックで拡大する)

このビッグデータは「世界中に存在するゲーム情報をすべて収集し登録したもの」であって、実際の資料をもとに入力した情報の他、ネット上に掲載されている真偽が確かではない情報なども含まれています。

②資料の収集

ゲーム保存協会では、日々、このビッグデータを利用しながら実際のソフトや資料の確認を進め、信ぴょう性の高いデータのみを集約したカタログを作成して文化庁に提出しています。

ただし、ゲーム保存協会ではソフトや資料を活動費で購入することはありません。一部の寄贈品や、団体本部で直接管理をしている主要メンバーらの個人コレクションはありますが、新規に収集が必要な資料は、一般のコレクターの方々に協力を求めています。ゲーム・アーカイブの意義や活動内容を伝え、プロジェクトへの参加や連携を呼びかけることで、貴重な資料を保管する方々のネットワークを作り、こうした作業を進めています。

ソフト収集

収集されたパソコンゲームのバージョン違い

③アーカイブ管理

実際に資料を手に取り作業する間、物理的資料であれば劣化や破損の恐れがあります。本部で保管する資料に関しては、ゲーム保存協会の専用アーカイブ室に収蔵されます。特に脆弱な資料群を安全に取り扱えるよう、完全遮光で室温や湿度を最適な状態に保つよう24時間モニタリングし管理。劣化を最大限遅らせるよう、各種特殊素材により組まれた専用の箱を使って資料を保管しています。

ゲーム保存協会に届いた資料は、担当アーキビストによって一つ一つ分類され、それぞれ専用箱の中に納められます。


■カタログ化作業

アーキビストと呼ばれる資料保存と管理の専門家のお仕事には、様々な種類の作業が含まれますが、中でもカタログ化は地味でありながらとても重要。実際に資料を手に取ることのできるアーキビストが、資料を基にして正確な情報をカタログにまとめることで、いつでも誰でも、正しい情報をもとに一次資料や原典と呼ばれる各種ソースを調べられるようになります。

資料から正確に情報を抜き出す作業には、資料を扱う十分な知識と、間違いなく情報を登録する集中力が求められます。

①資料の準備

まずは実際の資料を用意します。ゲーム保存協会には、70年代から90年代までに流通した書籍3万点以上を収蔵する資料室があり、偏りなく一次資料であるソフトをそろえるために、雑誌などの二次資料を活用して現存するソフトのリストアップを行います。

団体内ですでに把握し管理しているもの以外のソフトがある場合は、ゲーム保存協会の取り組みに賛同するコレクターらに協力を依頼。時には必要な資料を手にするまで長い月日を要することもあるのです。

実際のソフトなど、アーカイブ室に資料があるものは、状態を確認し材質ごとに最適な保管方法や保管庫に移すための分類を行います。パッケージ部分など紙資料は紙のみの保管庫に、ディスクやテープはそれぞれ劣化を防ぐ専用BOXに移し、各資料に対してQRコードを発行してラベル付けして行きます。材質ごとに分けたものでも、このラベルがあれば、いつでもまた取り出して元の形にセットし直すことが可能です。

磁気媒体専用の保管容器

②資料状況の確認

カタログ化の対象となった資料群は次に、順次資料状況の確認が行われます。雑誌であれば一般の書誌情報の確認から、付録の有無など、ソフトは付属品やディスクのスリーブの状態、マニュアルのページ数といった細かな情報まで一つ一つ確認して登録して行きます。複数同じ資料を持っていれば、どの状態が完全なものなのかを知る手がかりも得やすく、担当するアーキビストは大量の資料を丁寧に見比べ、すべての情報を登録して行きます。

ファイル化された厚紙のパッケージ

③デジタル化作業

ゲーム保存協会では専属のアーキビストが一点ずつ資料の状態を確認し、画像としてデジタル化が可能な資料は、カラーガイドやルーラーを付け高精細スキャンを実施します。

簡単な例だと、パッケージの外側についているジャケットのスキャンですが、資料のお掃除をして厚みや大きさ、重さの計測を行い、完全に平らな状態でカラーガイドをつけてスキャンするだけで、小さなものでも1つにつき10分以上かかります。紙箱の場合は分解作業が加わることもあり、専任アーキビストらが、専用の手袋をはめ、ラボで毎日この作業を繰り返します。

紙箱の場合では、接着部分に思わぬ追加情報がある場合もあり、ノリの部分を熱を加えて溶かして外し、展開したうえで完全に平らな紙の状態に戻るよう重しを掛けて伸ばします。箱を展開するので資料が傷むのではと思われる作業ですが、研究を重ねる中で最も資料の痛みが少ない手順を開発し、資料を傷めないよう慎重に作業を進めます。

再び元の箱型に戻したければいつでも戻せますが、展開して平らにすることでスキャンの精度も上がりますし、接着部分に制作年などの思わぬ発見があることも。

現在、こうしてスキャンされた画像はいつでも簡単に確認ができるようデジタルライブラリーとして保存されており、一部の資料はサポーター会員向けのウェブ展覧会という形で一部閲覧できます。

パッケージのデジタル化作業

④解析とタグ付け

ゲーム保存協会で行う高精細スキャンは完全な生データで写真を取り込みます。実はそのままの状態では容量が大きすぎて扱いにくく、スキャンした大量の画像データをデジタル・ライブラリーで確認できる状態に整えるため、スキャンしたデータを解析して各種のタグを付けて行きます。

資料の上下、背表紙の位置、右開きなのか左開きなのかといった具体的な情報を専用のプログラムでほぼ自動で解析し、タグ付けが行われます。

紙資料のタグ付け作業

⑤デスクリプション

ゲームの歴史を知りたい人たちが、実際の資料を手に取り確認できる機会はそう多くはありません。そこで、資料を持っていなくてもそのソフトのパッケージにどんなことが書かれているのか、外箱の様子やメディアの種類など、ほしい情報が得られるように文字に書き起こして登録する作業がデスクリプションです。

こちらはゲームやメディアに知識のあるアーキビストが行う工程で、タイトルや説明文など、誤字脱字もそのままに一字一句逃さずすべて書き写され、登録されます。

ソフト1つに対する入力項目は最大で150項目にも及び、メディアの識別から対象機種に関する情報の他、発売元や販売元など、資料ごとに記載が異なることも多い各種の情報を正確に分類して入力して行きます。

パッケージのデスクリプション作業

⑥公開用カタログ作成作業

先のディスクリプションでは、書かれた通りの内容を書き写すルールで、情報の登録を行っていますが、実際には発売元の名称に明らかな間違えがある、あるいは、パッケージ上にはディスク枚数など内容物について記載がない、など、一般に情報を調べたい人たちが見るものとしては不完全な部分がたくさん残ることとなります。

そこで、ディスクリプションで登録された情報を確認しながら、先の資料状況の確認で整理し登録していた実際の情報を追加するなどの作業をします。

ディスクリプションも資料の確認も、全て人が行う作業なので、当然人為的ミスによる入力の間違えも0ではありません。最後の工程ではそうしたミスもチェックしながら、情報を整えます。

ゲーム保存協会では、たくさんのアーキビストが異なる作業工程を担当し一つの資料を扱うシーンも多く、各段階で追加される情報は、常に何がソースになっていて、誰がいつ、記載したものなのかの記録も残しています。

少しでも精度が高く、また今後長く人々に使ってもらいやすいものを作るため、インターフェースを整えるなど、最後のアウトプットに向けた仕上げ作業をしています。

ゲームカタログのβ版


■今後の可能性

ゲーム保存協会が登録する数々の情報は、ゲームの歴史を様々な角度から研究する将来の学者やライター、クリエイターらに、様々な検索の可能性を与える重要なデータです。登録したアーキビストの情報や、いつだれがどの情報を何の資料をもとに追記したのか履歴が追えるシステムなので、登録情報には高い信頼性があります。

文化庁が作成するデータベースは、ここまでの詳細情報を要求していないため、ゲーム保存協会では、未来の研究者に備えて作成した高度なデータベースから、文化庁向けに情報をピックアップしたものを提出しています。

各年の事業期末には、このようにして大量にそろった情報を整理し、文化庁が求める形式に整える作業がやってきます。

私たちは、何人ものアーキビストが毎日何時間も資料と向き合って作り上げた高精度のカタログが、将来たくさんの研究者の糧となることを心から祈っています。ニーズに合わせてどのようにでも情報を検索でき、自由に使えるカタログとなるよう、引き続き作業を進めて行きます。

デジタル展覧会など、このカタログを活用した企画も少しずつ増えていますので、ぜひ今後にご期待ください。

研究用のデジタルライブラリー


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