ゲーム保存協会 Game Preservation Society

ゲーム保存協会のアーカイブとは

なぜゲームにアーカイブが必要なのか

ゲームは今や世界中で親しまれている文化です。私たちはゲームを文化財としてとらえ、ゲーム文化を未来に伝えるために活動を行っています。具体的には、ゲーム資料の収集、技術的に難しいゲーム資料の修復やメンテナンス作業、劣化するデジタルデータのマイグレーション、そしてこうした全資料の保管とアーカイブを日々続けています。

例えば粘土板やパピルスや羊皮紙などを使った古い書物は、千年以上の時がたった今でも、ある程度昔のままの姿を保っており、書かれた文章を読むことができます。しかし、ゲームは、ほんの数十年前に生まれたものでさえ、すでに磁気データが消えて読むことができない、非常にデリケートな資料です。絶滅の危機にある動物を救うのと同じように、ゲーム保存協会は、この消えかけたゲームソフトたちを保護し、息絶える前にマイグレーションをして次世代に残すことを使命として、研究や保存技術の開発にいそしんでいます。

写真:14世紀のコデックスの写本

写真:14世紀のコデックスの写本

 


コレクションの重要性

私たちゲーム保存協会では、ただ自分の思い出を残すためにゲームを保存するというところからワンステップ進み、ゲームという現象が文化的に豊かで興味深い研究対象であることを踏まえて、次世代の文化研究の支えとなるようなデジタルアーカイブや研究用データベースの作成を行っています。どんな分野の研究も、そこに至るまでの歴史をたどる方法、例えば図書館や博物館といった知的財産の蓄積共有の場がなければ豊かにはなりませんが、ゲームがこれから音楽や絵画のように研究されるには、同じように基礎となる資料の蓄積、つまり基となるコレクションが必要なのです。

私たちゲーム保存協会は、日本固有のゲーム資料の収集に意欲的に取り組んできました。最近では海外の図書館や博物館が、国レベルでゲーム資料の収集保存にのりだしており、アーケードやコンシューマーは、海外タイトルはもちろんのこと日本の作品も、海外のアーキビストがコレクションを買い取って自分たちの国できちんとした保管保存を行う動きが顕著になってきています。私たちゲーム保存協会は、こうした海外のアーキビストがまだ手を付けていないジャンル、日本の特殊な事情により廃棄処分され現存資料数が特に少ないものなどを優先的に収集しています。たとえば80年代の日本固有PC機種のために出されたゲームタイトルは海外にはまだあまり知られていません。これらのゲーム資料は、もし私たちがきちんと保存しなければ、完全に歴史の闇に消えてしまうため、積極的にコレクションをしています。

写真:80年代のゲームのパッケージ

写真:80年代のゲームのパッケージ

 

 

 

 

 

 

 


日本の死蔵文化の弊害

さて、ヨーロッパで「コレクション」というと、裕福で文化的教養の高い有力者が私財を投じて文化財を買い集め、それを人々に見せ、次世代に継承することで自らの文化的地位を高める行為を主に指します。この行為はかなり昔から存在しています。例えばドイツのヴォルフェンビュッテルという中世から続く古い侯爵領では、すでに16世紀に、当時の侯爵が古い写本のコレクションをはじめ、それを図書館として一般に公開。現在に至る数百年間、彼のコレクションは中世研究の重要資料として「ヴォルフェンビュッテル」の名のもと多くの研究者に使われてきました。

フランス国立図書館をはじめとした全世界数多くの国立機関とコレクション共有をしているロスチャイルド家なども有名ですが、こうしたコレクターたちは私財を投じて貴重な資料を買うだけではなく、その資料の保管保存にもこだわっていますし(専門の知識を備えたコレクション係を付けルーブル博物館並の管理をしています)、展覧会への貸し出し、図書館や博物館としての一般開放など様々な形でその文化財を活用することにも積極的です。場合によってはアーキビストを育てたり文化研究を活性化するための研究資金の提供もします。正しい資料保管の配慮ができること、一般にそれを見せ地域文化を育成することが、彼らにとってステータスであり、財力を持った一族の義務でもあるという考えがあるからです。

ところが、日本では、こういうタイプのコレクターは少数派です。よく言われるように、日本は死蔵文化で、貴重な品を手に入れたコレクターは、生涯そのコレクションを人に見せることなく手元に隠し置いておくことを美学とするケースが少なくありません。お寺の仏像などが数十年に一度だけ開陳されるように、人々の目に触れることが少ないほど価値が高いと感じる独特の感性があるのかもしれません。奥ゆかしく美しい風習かもしれませんが、研究者や博物館関係者にとってはこれが大きな悩みの種です。特にゲームは、数十年後のご開陳を待てるほど、時間に余裕がないのです!フロッピーディスクは簡単に劣化し、データは死蔵されているうちにあっという間に消えてなくなってしまうのですから。

写真:ゲーム保存協会のコレクションの一部

写真:ゲーム保存協会のコレクションの一部

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


ゲーム保存協会のコレクション

というわけで、私たちはヨーロッパのコレクターの意識に近い立ち位置から、自分たちでゲーム資料を集めることにしました。日本では、海外のようにコレクターらが積極的に協力を申し出てよりよい保管のために意見交換をしたり、必要な研究のために資料を貸し出したりする風土がありません。時に困難を極める一部のコレクターとのやり取りに時間を取られるより、積極的に資料の保存保管研究に協力をしてくれる仲間と協力し、足りない分は自分たちで集めた方がはるかに早く確実だとの判断で、大々的な資料収集へと踏み出しました。

最初は協会設立以前から活動を続けていた理事長ルドンのPCゲームを中心とした個人コレクションが全てでしたが、幸いにも同じような考え方でゲーム保存に積極的な複数のコレクターからの協力も得て、現在ゲーム保存協会全体で有するコレクションは、アイテム数約9万点にまで膨らんでいます(資料数には重複あり)。恐らく日本で最も大きなゲームのコレクションでしょう。私たちのコレクションは一般的なコンシューマーのゲームソフトだけではもちろんなく、PC、アーケードなどあらゆるジャンル、特に日本固有の機種、タイトルを多く集めており、ゲーム文化に関連するハード、書籍(雑誌や攻略本、技術書など)、音楽CD、チラシ、関連アートなど、コレクションの種類は多岐にわたります。80年代を中心とした日本独自のゲーム文化を研究したい人にとって必要な現物資料がほぼ全て揃うように、現在もコレクション数を増やしています。

写真:ゲーム保存協会の書斎。所狭しとゲーム雑誌が納められている。

写真:ゲーム保存協会の書斎

 

 

 

 

 

 

 


コレクションの管理

9万点というアイテム数を見ただけでもわかる通り、これは巨大なコレクションです。これだけの大きなコレクションを管理するとなると、二つの大きな問題が浮かび上がります。資料の劣化阻止と、コレクションを活用するためのアーカイビング、つまりどこに何がどういう状態であるのかを把握する作業です。

一般にゲーム保存というと、データを保存する技術的な面に意識が集中しがちですが、実際にゲーム保存協会の活動は、データのマイグレーション技術の発展だけで終わることはありません。まずは基本となる資料を数多く集めなければなりませんし、それを保存するためにも、資料の正しい保管について研究実践し、またそうした資料を多くの人が使いやすいように秩序立てて整備しなければならないのです。一般の博物館や図書館でも、資料を集めること、劣化を防ぐ保管、場合によっては修復作業をすること、そして資料が実際の作業や研究に使えるようどこに何があるのかカタログ化すること、という3つの異なる作業を日々行っていますが、ゲーム保存協会でも、同じことを行っています。


劣化を防ぐ努力

コレクションを保管する上で、ゲームは、紙や羊皮紙と違って資料のマテリアルが多岐にわたることに注意をしなければなりません。例えばゲームソフトであれば、そこにはプラスチック製のケースがあり、紙に印刷されたマニュアルや外カバーがありますし、さらに内部にはフロッピーやテープ、CDなど磁気データを収めた種々のメディアが入っています。資料の劣化を阻止しようと考えた時、このように複数の異なる素材が一緒に入っている時点で、劣化が促進されるのを、皆さんはご存知でしょうか?

そもそもプラスチックと紙と磁気メディアでは、それぞれ保管に適した温度や湿度、条件が違ったりしますし、それぞれの物質は微量ながらも劣化を促進するガスを出していたりします。これらを一緒の状態で保管すれば、当然に悪影響が出るので、保管の理想を考えると、資料はマテリアルごとに分離して、各々適した方法で保管をすべきなのです。

そう、保管のためには、資料を開封し、いったんバラバラにする必要があります。これは多くのコレクターにとって抵抗のある行為かもしれません。高い金額を払って買った未開封のソフトを保管のために開封しようと考えられる人は実際にとても少ないです。でも、例えばコレクションが買った個人を満足させるものではなく、その後に続く世代を育成し、社会を豊かにするものだと考えれば、手元にある資料を開封してでも長期保管に適したやり方で保存することが大切なのです。もちろん未開封等、初期の状態をとどめている資料は、未開封状態がどのようなものであったかなど、きちんと記録を残す必要がありますが、そのままの状態で放置するだけでは、まさに資料の死蔵になってしまい、文化活性の役には立ちません。コレクション管理の基本は、コンサベーション(適切な保管)で、そのために必要なことはどんなことでもします。

写真:保管のために 一つのゲームの中身をバラバラにしたもの

写真:保管のために 一つのゲームの中身をバラバラにしたもの

 

 

 

 

 

 

 


ゲーム・プリザベーション

資料を保管する際、劣化を極力避けて資料を長期の間、よりよい状態に保つための作業をプリザベーションと言いますが、ゲーム保存協会が扱う資料の多くは、これまでそうした長期保管のための作業を誰もしてこなかったもので、どのような作業が必要なのかを新たに研究する必要があります。

例えばディスクに付いたカビは、放置すればさらに劣化を促進してしまうので、掃除をしなければなりませんが、ディスクそのものを傷めずにカビを取るベストな方法を見つけるためには、他分野の科学的研究から情報を拾ったり、実際にカビ取り作業をしてみて資料の状態を観察したりと、想像以上に時間と労力がかかります。

もちろんすべての研究をゲーム保存協会だけで行うことは不可能です。私たちは、各マテリアルに適した保存専用容器の開発については、博物館の資料庫を作ってきた企業に依頼しており、現在当団体の資料は劣化促進をできる限り食い止めるために開発された保管容器に入れられています。

→フロッピーディスクの保管容器についての記事

ゲーム保存協会では、新しい資料が届いたら、資料を開封してマテリアルごとにわけ、それぞれを専用の容器に収納、その後それを収蔵室に移動して適切な棚に安置するのです。

容器を収蔵する部屋の管理にも気を使っています。資料を収蔵する部屋には、劣化の原因になるような余計なものは入れません。さらに温度と湿度を管理し、空気の流れをコントロールすることで、資料を安定した状態で保管できるよう配慮しています。

こうした作業のおかげで、各アイテムの寿命を延ばすことができますし、マテリアルごとに資料を分けることで、収蔵スペースの節約もできるのです。

写真:ゲーム保存協会のメディアルーム

写真:ゲーム保存協会のメディアルーム

 

 

 

 

 

 

 


アーカイブ化の必要性

さて、どんなに適切な形で保管した資料でも、その資料がもともと何で、どこの棚に置いてあるのかわからなければ、使いようがありません。私たちの使命はあくまでもコレクションを未来に託し、文化を活性化すること。ゲーム保存協会では、保管方法の研究と実践をすると同時に、こうした資料のアーカイブ化も行います。

アーカイブ化とは、いわば専門的な「棚卸し」作業です。まずはどんな資料を持っているのか、資料の状態、欠品やイレギュラーな点があるかないかなどをデータベースに入力します。先に述べたように長期保管のために資料はマテリアルごとに分けて適切な保管方法で保管室に入れなければなりません。ソフトであれば、パッケージ、表紙、メディア、マニュアルといった具合にそれぞれ分離しますが、この分離したもの一つ一つに、私たちはQRコードを発行し、データベースに入力していきます。これによって、もともと一組だった資料がばらばらに散逸するのを防ぐことができますし、収蔵した棚番号なども入力していきますので、どこにどの資料があるのか、すぐに調べて出すことができます。

皆さんはドキュメンタリー映像などで、博物館の収蔵室などを見たことがあるのではないでしょうか?あるいは学校の理科室や図書館では、各資料に小さなバーコードや資料名を記すシールなどが貼ってあり、数字や記号で分けられた棚に秩序立てて並べられているのを見たことがあるはずです。ゲーム保存協会のコレクションも同じようにして管理されており、これによって、研究者が必要な資料を見たい時には、データベースで検索し、記された棚から正しい資料を出してくることができるのです。


死蔵ではなく活用へ

現在、ゲーム保存協会では一部のマイコン関連雑誌資料を一般公開しています。

→資料室について 

先にも述べたように、私たちの使命はゲーム資料を未来に託し、真摯な文化研究を応援していくことにあります。集めた資料も、死蔵されては意味がなく、資料を必要とする人の手に届くよう最大限努力すべきだと考えています。

本部の雑誌資料室に続き、上述したような資料の「棚卸し」が終わり次第、マイコン・ゲームの協会アーカイブを公開する予定があります。

公開できるのは9万点に及ぶ巨大なコレクションの一部となるでしょうが、現在、その準備のためにデータベースへの入力、資料の整理と保管庫の整備を進めている最中です。実際のアーカイブ室公開までには、まだまだ長い道のりがあります。

私たちの活動理念やアーカイブ事業に関心を持っていただけたなら、ぜひ経済的支援ご協力をお願いします。私たちは既に相当数のコレクションを持っており、アーカイブに関する専門的知識や作業手順を身に着けたメンバーも数名ボランティアとして活動しています。こうした人とものを活かすためには、安定した活動資金が必須です。例えば劣化を阻止する専用保管箱は、テープ20個が入る大きさのもので約4500円。5インチフロッピー120枚を入れる中性紙封筒のついた専用ケースは約1万2千円です。ゲーム保存協会は活動の公平性を保ちゲーム資料を中立的立場から文化研究のために保存していくために、企業からの助成金などを受けず皆様からの善意の寄付により運営をしています。一人一人の方からの温かいご支援が100年先の文化研究へと繋がるよう、誠意をもって活動を続けておりますので、ぜひ、ご無理のない範囲で、ご協力をお願い申し上げます。

→ご寄附ご参加はこちらから 

 

ゲーム保存協会 理事長

ルドン ジョゼフ

ゲーム保存協会 Game Preservation Society

ジャパン・タイムズに理事長ルドンのインタビューが掲載されました

0_JapanTimesゲーム保存協会の理事長ルドン・ジョゼフのインタビューが、英字新聞「ジャパン・タイムズ」に掲載されました。
2015年9月16日発行の記事です。
今回は、この記事を翻訳してご紹介いたします。

 


Play it again: One fan’s quest to save old video games

レトロゲームよもう一度 ―とある愛好家の古遊戯救出物語―

BYデイブ・クレーカー

ジャパン・タイムズ 2015年9月16日の記事

 

私たちは小津安二郎氏が日本を代表する映画監督の一人であると考えていますが、彼の初期作品のいくつかは、映画が残すべき芸術作品としてではなく、使い捨てのエンターテイメントだと考えられていた時代があったせいで、私たちの歴史から完全に失われてしまいました。ゲーム保存協会理事長のジョゼフ・ルドンはビデオゲームが同じ状況になってしまうことは望みません。

「例えばオペラを『古い音楽』とは分類しませんよね。クラシック音楽です。ビデオゲームも同じです。ここにあるようなゲームタイトルはクラシックで、クラシック音楽と同じような価値があるんです。薄汚い攻略本から、どんな風にメディアが包装されていたかまで、ベストセラーのもの以外でも、全てを保存しなければなりません。」

ネットワーク・エンジニアを職業にする彼は、満面の笑みをたたえ、語り口はまるで整頓された配線コードのように理路整然としています。フランス生まれの彼は、日本のPCレトロゲームの研究と収集のために2000年に東京へ引っ越してきましたが、日本では古いコレクションがレトロゲームのコミュニティーごと萎縮し消え去っていることを目にして衝撃を受けました。彼はネットオークションや掲示板を通じて、レトロゲームに対する情熱を共有する仲間たちとコンタクトを取るなどして、少しずつ自分なりのやり方で研究を進めていきました。そして2011年、いわばサブカルチャーのゴミ収集所からゲーム文化を救い出すため、NPO法人『ゲーム保存協会』を設立したのです。

私たちは東京の等々力近郊にある4階建てのマンションでインタビューを行いました。ここは団体の作業スペース、アーカイブ、そしてルドンの自宅として使われています。レトロゲームに向き合う彼の姿勢は素晴らしい。しかしなぜ今日の人々が、例えば(適当に収納棚からパッケージを引っぱり出してみた)『森田の将棋』という、将棋のシミュレーションゲーム(かな?)のことを気にかける必要があるというでしょうか。ルドンはよどみなく答えました。

「あぁ、森田さんは美しいアルゴリズムを書いた本当に特別なプログラマーですよ。当時はコンピューター雑誌が主催して読者の作品コンテストをよく行っており、森田さんはその受賞者でした。賞金一千万円に作品毎への著作権料がもらえる、なんていうこともあったんです。」

ルドンはアーカイブしているどんな作品についてでも、ちょっとした逸話が語れます。ディスクは単なるデータ以上のものなのです。こうしたディスクは現在のゲーム産業が拠って立つ忘れられた歴史を語っています。当時のビル・ゲイツのような独学プログラマーたちが、雑誌コンテストでの成功を経て任天堂やセガやソニーといった会社に入り、ソフトウェアの開発をしていったことを想像して見て下さい。

しかしながら、国のビデオゲーム博物館内の殿堂で、そうしたプログラマー達の名前を見ることはできません。そもそも日本にはそんな博物館など存在しません、はい終わり。ビデオゲームは日本のクールジャパン・ソフト戦略の一角をなしているのに、なぜ政府はこれらゲームを、映画やアニメと同じように、保存―あるいはその芸術性を宣伝する動きに乗り出さないのでしょうか?

これはどうも各機関の間での利害関係の問題のようです。ルドンは以前、政府が主催するビデオゲーム・データベースのアドバイザーを頼まれましたが、その内実は立ち入り禁止で近寄れないことだらけだったのです。

「政治家はどこに資金が流れるべきかを事前に決めています。団体組織を作る唯一の焦点は政治家自身の天下り先確保にある。ただビデオゲームの場合、多くの政治家はイメージ的にそんなものに自分が関わっていると見られたくないとも考えている。」と彼は説明します。こうした微妙な背景のもとに進められる困難な交渉事は、時間の無駄でした。時間はルドンが決して無駄にはできない重要なものの一つです。彼の試算では、フロッピーディスクの寿命は理想的環境化で保存しても30年ほどです。湿度の高い日本の夏は理想的環境からは程遠いのです。

ルドンは建物2階の室内環境をコントロールしている保管室に私たちを案内してくれました。そこは20,000枚のディスクを保管する特注ケースが天井まで整列した巨大なウォーク・イン・クローゼットになっています。この部屋は室温が年中20度以下に保たれ、湿度が60%を上回れば、近隣にいる団体メンバーにアラーム信号が送られて、何が起きているか確認しに誰かが駆けつけるようになっています。万が一カビがディスクにこびりつけば、ゲームオーバーなのです。

写真:ゲーム保存協会のメディアルーム

それでもこれは完全とは言えない一時的な解決法でしかありません。彼の目指すエンディングは、ディスク内のデータを安定した動作環境に移動させること、つまりマイグレーション(移行)なのです。ディスクにはコピープロテクトがついています。このプロテクトをクラックしてコピーされたデータは真正性のないデータで、プロテクトを外したことによるバグが発生している危険もあります。デジタル保存の厳しい審査基準に基づけば、クラックされた改変データは、シミの付いたモナ・リザのレプリカ同様に無価値なものとみなされるのです。

そこで登場するのがディスクのデータをクラックせず完璧な状態で転送することができるKryoFlux(クリオフラックス)というクレジットカードサイズの小さなデバイスです。この機材を導入することで、昔のパソコンのディスクドライブから全く改変されていないディスクの完璧なコピーを現代のマシンに移すことができるのです。これはMRIが我々の脳の動きをマッピングするのと似たやり方で、ディスクの磁気記録をマッピングします。ここから、ゲームをエミュレーターで起動することもできますし、あるいは新しいフロッピーディスクに書きこんで元のハードウェアで同じように起動させることもできます(もちろんハードウェアがまだ動く状態だと仮定して)。

ゲームはまず何よりも、遊ばれるために存在するものなので、ルドンと彼の仲間たちは古いアーケード筐体のメンテナンスも手伝っています。

「クラシックカーの修復と同じだと考えてください。」と彼は言います。「もちろん、その車のエンジンを新しいパーツで再生産することはできます、ただ乗り心地は変わってしまう。愛好家はオリジナルの方により高値を払います。まさに金持ちの道楽ですね。」

説明のため、彼は特注品のピンチローラー(テープリールを巻き取るための回転部分のパーツ)が入った箱を取り出しました。ルドンが復元するまで失われていたDECOカセットシステムに使われたものです。原型だけで10,000円がかかりました。彼は80個注文しました。

もし、こんなゲームの歴史に触れたいと思ったらなら、ルドンおすすめの秋葉原にある「ナツゲーミュージアム」というゲーセンと、「中古ソフトショップBEEP」に行ってみるといいでしょう。彼の理想は、レトロPCゲームをより一般に普及させるような公式エミュレーターの開発なのですが、資本が限られています。NPOに17人もの中心メンバーらがいるとしても、次のレベルへ活動を進めるためには政府や産業界の支えを必要としています。

ルドンのレトロゲーム趣味は完全に彼のライフワークになりました。もしこのアーカイブ事業が全て完了したら、次はどうするのでしょう?

「今のところ、私がまだ遊んでいないクラシックゲームの長いリストがありますから」そして彼は、「そうなったら、いつの日かついに私もそのゲームたちを座って遊ぶ時間がもてるでしょうね。」

 


NPO法人ゲーム保存協会についての情報は次のサイトを参照
ゲーム保存協会 www.gamepres.org

ナツゲーミュージアム www.t-tax.net/natuge
BEEPショップ www.akihabara-beep.com/info/


→元のジャパンタイムズ記事

Galactic Wars 1

日本ファルコムの初作品、『ギャラクティック・ウォーズ1(GALACTIC WARS 1)』の保存

ゲーム保存協会は、文字通りゲームの保存を目的として日々活動しています。保存の対象はアーケードゲーム、家庭用ゲーム、PCゲームなど、幅広くあらゆる範囲にまで及びますが、そんな中でも今回は日本のPCゲームの黎明期に日本ファルコムから発売された『ギャラクティック・ウォーズ1(GALACTIC WARS 1)』の保存についてご紹介します。

■日本ファルコムの歴史

東京の立川に居を構える日本ファルコムは、1981年に「コンピューターランド立川」として設立され、アップル製品を中心にコンピューター製品を販売するショップでした。その翌年には初めて社独自のパーソナルコンピューターゲームの販売を開始しています。1984年の『ドラゴンスレイヤー』や1985年の『ザナドゥ』、そして、1987年の『イース』『ソーサリアン』と言った数々のゲームのヒットでPCゲーム界の雄として君臨し、近年においては『英雄伝説』の軌跡シリーズが有名な、老舗のコンピューターゲーム企業です。

■『ギャラクティック・ウォーズ』とは?

その日本ファルコムの記念すべき初作品は『ギャラクティック・ウォーズ1』と言うSFシミュレーションゲームでした。

『ギャラクティック・ウォーズ1』の制作者は、当時コンピューターランド立川に客として足繁く通っていた木屋善夫氏。後にドラゴンスレイヤーシリーズの作者として有名になり、当時のPCゲーム系雑誌などで”スター・プログラマー”としてもてはやされ、人気となったその人です。

『ギャラクティック・ウォーズ1』は、木屋氏が趣味でパソコンのプログラムを弄っていた中で生み出されたゲームの一つで、コンピューターショップだったファルコムがそれを製品化して発売すると言う形で世に送り出されました。ちなみに、日本ファルコム黎明期のソフトのほとんどはこうした常連客による”持ち込み”であり、社として本格的にゲームソフトを開発するようになるのは、自社ソフトの販売が軌道に乗ってきた1984年頃のことでした。

BASIC言語で作られた『ギャラクティック・ウォーズ1』は、まず最初にファルコムより木屋氏に貸与されたCASIOのFP-1100で発売されました。 その後NECのPC-8801、PC-9801と順次発売されましたが、当時  無名のいちショップに過ぎないメーカーによって製造・販売されたパッケージの数は、当然のことながら極僅かなものであったため、今現在では中古ショップやネットオークションなどで見かけることのほとんどない、極めて希少価値の高い作品となっています。

■『ギャラクティック・ウォーズ1』の実物に巡り合うまで

そんな”レア”な『ギャラクティック・ウォーズ1』、ゲーム保存協会では、最近実物と巡り合い、保存する事に成功しました。きっかけは、筆者が制作者の木屋善夫氏と交流を持てた事でした。

なんと、木屋氏は日本ファルコムにてご自身が開発されたゲームのパッケージのほとんどを未開封の状態で所持していました。ご本人は記念のつもりで持ち続けていらしたようですが、この事が保存にとって大変有意なものとなりました。

木屋氏との交流を重ねる中で、保存活動の説明や意義などを話す機会に恵まれ、所持されているパッケージの貴重さと存在の重要さを説明しましたところ、木屋氏のご厚意によって未開封状態の『ギャラクティック・ウォーズ1』(PC-8801) を保存のためにお預かりすることができたのです。

■フロッピーディスクのデータ保存

こちらが木屋氏からお預かりしたパッケージです。

02-201509

高温多湿な日本では、まず第一に問題になるのが”カビ”になります。カビは湿気があるとフロッピーディスクの磁性体で成長しやすく、カビが付いた状態でディスクを読み込もうとすれば、データの読み取りの妨げになるばかりでなく、ディスクの破損にも繋がってしまいます。

パッケージを開封します。緊張する瞬間です。

03-201509

開いて出てきたフロッピーディスクのスリーブとマニュアルの紙は、一見するとカビもなく綺麗な状態に見えましたが、よく見ると水分を吸って乾いたときに出来るような皺がよっていて、湿気に晒されていた状態にあったことを伺わせました。

そして肝心のフロッピーディスク。一見すると状態は良いように見えましたが、平行にして見てみるとディスクそのものに”たわみ”が確認され、果たして無事に読み出せるかどうか何とも言えないと言う状態でした。また、磁性体の部分を回転させながら丁寧に見て行った結果、大きなものではなかったものの、数か所にカビと思しき物も確認されました。

04-201509

保存作業の前に、まずはカビを落とすことから始めます。カビが発見された部分に100%のイソプロパノールを塗布して、丁寧にカビを落としていきます。

一通りカビを落としたら、次はディスクの状態の確認をします。2Dのディスクは40トラックですので、データが入ることのない41トラック目の部分を読み込んでみて、物理的にディスクどのような反応が起こるのかを確かめてみます。

読み込んでみた結果、ディスクの磁性体が剥がれたり傷ついたりはしませんでした。ディスクは読み込みに耐えられる状態であることが確認されましたので、そのまま保存作業へと移ります。

保存にはクリオフラックス(KryoFlux)を使用します。クリオフラックスとは、フロッピーディスクの情報を根源から読み出すことのできるハードで、日本国産のゲームを保存するために現・ゲーム保存協会の理事長ルドン=ジョゼフ氏が開発に関わって誕生したデバイスです。
『ギャラクティック・ウォーズ1』のディスクは既に30年の年月が経過していますので、あと何度読み込める状態なのか分かりません。できれば一度の読み込みで一気に保存を完了させたいところですが、保存作業を行ってみたところ、残念ながらデータとして読み込めない部分が1か所、読み込みが正常であるか疑問のある不安定な部分が1か所でてきてしまいました。

05before-201509

上の画像はフロッピーディスクの裏表の読み込み状況を可視化したもので、緑色の部分がフォーマットされたセクタ、濃い緑の部分にはゲームのデータが入っています。今回の読み込みでは濃い緑になっているべき部分の一部が青い状態になっており、読み込みが何らかの原因で阻害されていることが分かります。

ディスクを取り出し、もう一度カビのあった部分のクリーニングを行って、再度保存作業します。その結果、前回読み込みが不安定だった部分は、再度の読み込みでも全く同じ結果が出たため、正常に保存されていると判断できました。

しかし、読み込みのできなかった部分は依然読み込めないままです。あるいは原因はカビや埃ではなく、ディスクそのものにダメージがあるのかもしれない…、そんな不安を抱きながらも、祈るような気持ちで再度クリーニングし、もう一度保存作業を繰り返します。

丁寧にカビを落とすこと3度目、その結果は…

05after-201509

見事読み込みに成功しました!

前の画像で読み出せていなかった青い部分が、今度は濃い緑になっています。現場に居合わせた一同が、安堵と喜びで沸いた瞬間でした。

こうして無事『ギャラクティック・ウォーズ1』のディスクは保存に成功しました。保存されたデータから、エミュレーターで遊べるようにディスクイメージへと変換することも可能です。

06-201509

このゲームは銀河系連合軍の惑星M23に第三帝国の宇宙艦隊が総攻撃をかけてきていると言う設定で、プレイヤーは連合軍α艦隊の総司令官となって惑星を敵艦隊から守ります。難易度は1~3のレベルを選択可能です。惑星(PLANET-M23)と2機の艦(FALCONとUNICON)、そして惑星に3機配備されている偵察機に指令を出して敵艦を探し出します。指令ターンには時間制限があり、メーターが円を一回転する間に指令を終えなければならず、ある程度のリアルタイム性があります。この辺りは後の『ドラゴンスレイヤー』にも通じている要素です。艦隊と偵察機には方向(360°の範囲を15°ずつの細かさで24方向へ指定)と速度(1~50)の指定が可能で、各艦が敵艦隊と遭遇すると、あらかじめ設定した攻撃隊や護衛隊の数値の下で戦闘が開始され、3機の敵艦隊を全滅させればクリアとなります。疑似リアルタイムの中で戦略性のある判断が求められるゲームで、PCゲーム黎明期の当時としては“遊べる”部類に入ります。

ちなみに、『ギャラクティック・ウォーズ1』は、起動直後にディスクのブートプログラムの部分を一度削除し、ゲーム本編が始まった後に削除したブート部分を復活させるという挙動をします。 ゲームを遊ぶために起動した後、正しい手順でゲームを始めないと、データが失われてしまいます。 ゲームのプログラムリストをコピーさせないための、一種のコピープロテクトと思われますが、かなり“意地悪”な仕掛けです。そのため、仮に開封済みのパッケージソフトを何らかの形で入手できたとしても、データ内容が無事であるかどうかは未知数であり、未開封状態の『ギャラクティック・ウォーズ1』が現存することは保存にとって、とても重要なことでした。

■ジャケットとマニュアルの保存

保存を行うのはフロッピーディスのデータだけではありません。パッケージのジャケットやマニュアルも保存の対象となります。次は、スキャナーを使ってジャケットとマニュアルの保存にとりかかります。

07-201509

紙が曲がった状態だと、スキャナーの天板と紙が曲がった部分の間で、若干の隙間が生じてしまうため、綺麗にスキャンすることができません。そのため、パッケージの紙はあらかじめ箱から取り出して、しばらくの期間、紙を伸ばした状態でファイルしておきます。

実際に スキャンを行ったのは、半年以上が経過した頃 です。半年前と比べると、曲がっていた紙は平面に近い状態になっています。
スキャンにあたって下準備をします。まずは、スキャンした画像に埃が混入しないよう、天板や周囲は専用のクリーニングキットで丁寧に拭き取ります。スキャナーの自動補正の機能を使うと、取り込んだ画像が意図しない状態に補正されてしまうことがあるため、これらの設定は全て外して生の状態で画像データが取れるようにします。 取り込み後の画像補修をしやすくするため、解像度は高めの800dpiに設定します。

スキャナーの天板上では、取り込むことができないスキャナーの端の領域部分に定規を設置し、そこにパッケージの紙を合わせます。これによって取り込んだ画像の大きさが目視で判るようになります。また、画像の背景になるように色干渉が少ない灰色の板を差し込みます。板にはカラーガイドが付いており、スキャン対象物の色褪せ具合を判別することができます。

08-201509

スキャナーの天板上では、取り込むことができないスキャナーの端の領域部分に定規を設置し、そこにパッケージの紙を合わせます。これによって取り込んだ画像の大きさが目視で判るようになります。また、画像の背景になるように色干渉が少ない灰色の板を差し込みます。板にはカラーガイドが付いており、スキャン対象物の色褪せ具合を判別することができます。

09-201509

取り込んだ画像はPhotoshopを使って修復を行います。紙に付いた傷や埃など丁寧に除去していきます。今回は幸いにもジャケットのダメージが少なかったため、大規模な修復の必要はありませんでしたが、紙の破れや色褪せなどが大きかった場合は対象物を複数用意しなければならなくなることもあります。

10-201509

修復完了したジャケット画像がこちらです。

元々の紙自体がオレンジ色であったため、本来のジャケット画像は白黒となります。
この当時のファルコムのパッケージでは機種別に使用する紙(色など)が異なっていた可能性が高いため、FP-1100版やPC-9801版はまた別の色のパッケージであったと思われます。
修復された画像を元と同じ紙に印刷をすれば、パッケージの再生も可能と言うことになります。

■終わりに

こうして、現存すること自体が稀なゲームソフトウェアの一つを、幸いにも無事保存することができました。

ゲーム保存協会では、団体に参加している協会員によって既に多くのゲームを収集していますが、それでも未だ所持していない貴重な作品はまだ数多くあります。また、こうした数多くの作品の保存を行うのは多くの手間がかかるため、限られた人数では実際の保存作業はなかなか進みません。日本の文化財であるゲームの保存に携わりたいと言う方がいらっしゃいましたら、是非一緒に活動して頂きたいと願っています。ちょっとしたご助力でももちろん構いません。もし、何らかの形で保存にご協力いただける方がいらっしゃいましたら、こちらをご覧頂けたら幸いです。

当団体では、今後も現存する”全てのゲームの保存”を目標に日々活動をして参ります。

ゲーム保存協会 金澤

※パッケージやゲーム画像などの著作権は著作者に帰属します。