歴史に埋もれたメディア

過去にゲームやアプリケーションが記録されているメディアと言えばフロッピーディスク、カセットテープなどの磁気メディアやロムカートリッジが使用されていました。フロッピーディスクでは8インチや5.25インチ、3.5インチが一般的ですし、カセットテープでは一般的なオーディオなどにも使用される形状のものでしょうか。
しかし歴史に埋もれてしまったメディアもあります。3インチのフロッピーディスクはその一つです。シャープのPC(X1D)で採用され、今年3月に残念ながら解散となったハドソンの有名なアドベンチャーゲーム「デゼニランド」が国内初の3インチメディアを利用したゲームとして発売されました。当時3インチには多くのユーザーが期待していましたが、結局3.5インチや安価となった5.25インチなどのディスクが普及したことで影を潜めてしまいました。 余談ですが、不思議なことでヨーロッパでは広く普及し、AmstradCPCやZX Spectrumなどでは長く愛されるメディアになりました。

一方、磁気テープには殆ど知られることなく埋もれてしまった不思議な存在、「ミニデータカセット」があります。 欧州フィリップスの「ミニカセット」から、米国ヒューレットパッカード(HP)がデータ保存の為に考案したメディアです。 一見すると中のテープは通常のオーディオ用テープですが、カセットのサイズがマイクロカセットに近いものです。
一般的なカセットテープと異なり磁気テープの先頭にインデックスホールがあり、データがセクター毎に分割されて保存されています。さらにはCRCによるリードチェックを行い、エラー時にはそのセクターの再リードできるなど、フロッピーディスクの技術をテープに置き換えたような存在でした。 国内では70年代後半にティアックがそのテクノロジーを利用して、通常のオーディオテープに近い形態としてサーバーやシンセサイザー用のバックアップ機に応用されました。どちらも業務用の高価な機器でゲームのメディアとして使われなかったはずでした。

ところが、あるアーケードゲーム会社が自社ゲームをコピーされない基板として発売するため、これを利用することにしました。 単純にカセットをコピーしただけでは動作出来ないようデータに暗号化を行い、さらにゲーム起動するためにドングルというデバイスを追加する必要があるように作成しました。
そして遂にアーケードゲームシステム「デコカセ」と言う非常に珍しい存在が生まれました(データイーストコーポレーションカセットシステムの略)。アーケードゲーム業界で磁気テープを利用するシステムは恐らくこのシステムだけでしょう。 当初はミニデータカセットと一般的なオーディオテープのサイズだったデータカセット(一般的に「大カセ」(ダイカセ)と呼ばれています)の両者が存在していていました。ただし「大カセ」は通常のカセットテープレコーダーでコピーが可能であるためすぐに消滅しました。 最初のデコカセシステムは筐体と一体となった形で販売、流通していましたが、「大カセ」が消滅した後に置き換えの出来るシステムとして再設計されました。

1980年12月のシステムと同時にリリースされたマンハッタン、そして1981年にリリースされたプロゴルフ(恐らく初のゴルフゲーム)で人気が高まりました。 システム基板(3枚組)の価格が当時としては高価ではありましたが、その後にテープとドングルの組み合わせで販売されたゲームは比較的安価であり、基板をすべて交換しなければ新しいゲームに入れ換えることが出来なかったアーケード業界では歓迎されました。
このような形でゲームの入れ換えが可能なシステムは、アーケード業界では「デコカセ」が恐らく初めてであったと思われます。 息が長く非常に多くのタイトルがリリースされたことでも有名なシステム基板であり、1985年まで50タイトルほどのリリースがありました。 他の印象的なタイトルと言えば、トレジャーアイランド、プロテニス、ハンバーガー、バーニン’ラバー、スケーター、ラッパッパなどなど、枚挙に暇がありません。

一方で当時でもテープデッキが不安定であることやテープの早い劣化によりゲームが起動できなくなることが多く、評判が良くない一面もありました。 このため海外向けの流通に際しては、圧力から一番人気のあったタイトルをロム基板化してリリースしました。当然その基板はコピーされて、折角のコピー困難な技術が無意味となってしまいました。 しかしロム基板とされず、テープのみでリリースされたタイトルが少なくありません。残念なことに、これら殆どテープは劣化による故障や時間と共に飽きられ人気が無くなることで、ゲームセンターから消滅し殆どが廃棄処分されてしまいました。

デコカセは歴史的に重要なシステムであり、ゲーム保存協会は多くのアーケードゲームを整備・保存されている高井商会様と協力しながら保存研究に入りました。 およそ14ヶ月の間、高度な技術を所有されている多くの方々から協力、支援を頂き、一つの目標へ到達しました。 代替パーツを作成することでデッキの修理や保守が可能となり、テープも劣化部分を修復し、リマスターも可能となりました。 多くの貴重なタイトルが未来へ救われたと言えます。 今回のデコカセを通じて高井商会様とはアーケードゲームに関する保存や情報の共有を協力させていただくこととなりました。

動作困難となっているデコカセ(カセットテープを含めて)を所有されていられる方がいらっしゃいましたら、必要なパーツ代などの実費のみで修理対応させていただきますのでご連絡下さい。

ゲーム保存協会 ルドン

高井商会さんホームページ: http://www.ampress.co.jp/takaishokai/takaishokai.htm

ゲームを捨てないで!

先日10月25日、両国にある江戸東京博物館内で、情報保存研究会のシンポジウムが開催されました。
無料の催しで、資料保存に関係する多くの方、企業や団体の方々が参加されるイベントです。
ゲーム保存協会も資料の保存が日々の仕事、ぜひ他の方々の取組みを拝見させていただこうと会場に向かいました。

今回初めて参加させていただいたこのシンポジウムで一番印象深かったことは、皆さんの資料保存に対する姿勢です。
アーカイブには様々なタイプがあり、個々の皆様の取組みも十人十色、それでも、全員が一致して、未来に資料を残すという使命感のもと必死に取り組んでおられることが伝わってきました。ゲームも古文書も掛軸も、ものが何であっても、将来この資料を使う研究者のために一つでも多くのものを残したい、という気持ちは同じです。
シンポジウムでは3月の大震災で被害にあった資料の救援など興味深いお話もあり、地元の人と協力して資料を扱い、デジタル保存したものは必ず地元にコピーを置くことで還元するという取組みで、文化や歴史を残すことの大切さを多くの人に広めることにも繋がっている例など、示唆深い内容でした。

お願いです、みなさん古いゲームを簡単に捨てないでください。
20世紀の文化を後世に残すには、お手元にあるゲーム資料が必要です。
多くの企業は倒産や合併や移転で、当時の開発資料や製品そのものを処分したり紛失したりしています。企業にある場合は、どうぞ大切に保管保存をするよう取り組んでください。個々のご家庭にあるものについては、カビなどに気をつけ保管し、保存について専門的技術が必要であればご相談ください。私たちは保管、そしてソフトウェア自体の内容を正確に残す高度なマイグレーション技術を持っています。ご相談いただければ、ゲームに限らず様々なところで、過去の文化を残す取組みに貢献できると思います。

そしてすでにゲームの保存や保管に関心を持っている方々は、改めて、どうか全ての資料を残す努力を続けてください。
何が資料的価値をもつのかは、私たちではなく未来が決めます。
売れたからとっておこう、とか、有名だからとっておこう、だけではなく、関係するあらゆるものをできる限り保存する努力をしてください。
私たちゲーム保存協会では、家庭用ゲーム機などのコンシューマ関連だけではなく、アーケードやPCなど、できる限り多くの種類のゲーム資料を集めて保管保存しています。
保存作業の優先順位をつけるのであれば、それは資料的価値ではなく、資料そのものの劣化速度にあわせて考えてください。
コンシューマ関連のROMカセットなどは耐久年数が比較的高いです。一部CD-Rなど不安なものもありますので、手遅れになる前に正確なマイグレーション技術を開発する必要がありますが、まだ少し時間の余裕があります。それに比して主にPCのゲーム資料に多いフロッピーディスク、アーケードの基板などは非常に繊細で劣化が速いです。ゲーム保存協会でも優先に作業を行っていますが、一人の作業者が使える時間には限りがあります。
どうかゲームに関する研究をされている方々、ゲームに関わる企業の方々、ゲームの歴史を残すために助力いただける皆様は、劣化と向き合い、未来の文化研究家のために脆弱な資料から順に丁寧な保存作業を進めてください。

実際の資料保存の方法や、マイグレーションに関する注意事項などは、今後順次ゲーム保存協会の団体ホームページ及び掲示板で公開していきたいと思います。
また、よりよい技術や優れた方法があればぜひ皆様からもご助力いただきたいのです。

資料の保存は一人の力だけではできません。特殊な専門領域間の連携や自由な情報交換、そして人々の協力があってはじめて達成できます。まだまだ文化財という意識で取り扱われることの少ないゲームですが、100年後、きっとこの資料を使って20世紀の歴史を研究する人が出てきます。この資料を活用して、当時の文化の変遷を学ぶ人たちが現れます。
一人でも多くの方とこの意識を共有し、資料の保存に取り組みたいと思うので、ひとつでも多くのゲームが残せるよう、ご協力をお願いいたします。

ゲーム保存協会 辻

情報保存研究会さんホームページ: http://e-jhk.com/html/

幻の8インチのゲーム

1970年、IBMによって開発された8インチディスク。皆さんは子供の顔ほどもあるこの巨大なフロッピーディスクをご存知でしょうか?

一昔前には国産のPCでも8インチメディアが広く採用されており、80年代前半まで、いくつかのゲームも8インチで発売されていました。他のフロッピーと同様に残念ながらこの8インチもドライブ、メディアとも90年代後半には生産がすべて終了してしまっています。

私たちゲーム保存協会では、失われ行く旧世代のゲームを将来に残す活動の一つとして、この珍しい8インチディスクに関する取組みを続けています。 ラボでは様々な技術を駆使して保存活動を行っていますが、今回はそうした取組みの一つであるイメージデータとしての8インチゲームの保存方法について、入手なども比較的容易なやり方での保存方法をざっとお伝えしたいと思います。

必要なものは:

1、5.25インチをサポートしているPC/AT機(DOS/V機) BIOSのFDDの中に1.25メガバイト5.25インチをサポートしたものが必要です。

2、8インチのドライブ これがないと始まりませんよね。今回使用したドライブはNEC製のPC-9881nに内蔵されている「FD1165A」というものです。 PC/AT機と接続する上での注意点は「ドライブ番号」と「VFO」です。 「ドライブ番号」ですが、PC/AT機はケーブルを撚ることでドライブA、Bを分けており、ディスクドライブの基盤上での番号はどちらも「1」になります。 「FD1165A」もドライブ番号を「1」に設定しましょう。 次に「VFO」ですが、これを無効にする必要があります。 ドライブの基盤上に「RD」と記載されたジャンパがあると思います。これを「センターと2」へジャンパすると無効になります。 ドライブの準備はこれでOKです。

3、イメージ化のソフト 今回はエミュレータなどで広く使用されている形式としてイメージ化を試みますので、DOS環境でM88エミュレータの周辺ツールである「DITT」を使用させていただきました。 「DITT」を制作されたcisc氏に感謝いたします。

4、8インチドライブに必要な信号を作成してくれる「D Bit製 FDADAP」アダプター 今回のキモです。 8インチドライブは「TG43」や「motor on」と呼ばれる、3.5インチや5.25インチのドライブでは使用されていない信号が動作に必要です。 PC/AT機と8インチドライブの中間に接続することで、これらの信号を作り出し、ドライブとやりとりしてくれるアダプターです。

5、接続するケーブル50ピンのフラットケーブルはいわゆる内蔵SCSIのもので問題ありません。 その他、PCとドライブを接続するFDDのケーブルは通常のものを使用しました。 今回の場合、ドライブAをDOSのシステム起動に利用し、ドライブBを8インチドライブの接続としました。 イメージ化したファイルの保存先などにUSBメモリーを使用すると作業が楽です。

これらを接続し早速イメージ化です。

1つの注意する点は「FD1165A」と「FDADAP」を接続する際にピンの配置が180度反転している点です。 ケーブルを反転して接続することだけ注意してください(1ピン側を50ピン側にする)。 この際、逆挿し防止の為のノッチ部分は削るなどの加工が必要です。

私の所有している8インチのゲーム「LOCUS-98」をイメージ化してみました。 資料によると1983年の発売とのこと。私は小学校低学年の頃で父のPC-9801でプレイしていました。 フォーマットはPC-98シリーズのディスクBASICのもの、いわゆるIBMフォーマットです。 「DITT」は163トラックまでイメージ化してしまいますが、8インチのドライブは153トラックまでしか存在しません。 154トラック以降は不要ですので、バイナリエディタなどで消去しましょう。

作成されたイメージをエミュレータで確認してみます。 懐かしい記憶が蘇りますね。

ゲーム保存協会では今回例として取り上げた「LOCUS-98」の他にもいくつかのイメージを作成しましたが、8インチメディアは劣化がかなり深刻です。 非常に珍しい8インチディスク版のゲームソフトを苦労して収集しても、ディスク自体の損傷が激しくて読み込めないものも多々あります。こういったディスクはもう諦めるしかないのでしょうか?

ゲーム保存協会では文化研究資料として、そして文化財として、未来に残す資料としてふさわしい形での保存について、国内外の研究者の力を結集し研究開発してきました。現在では、ご紹介した保存方法よりもさらに高精度の保存技術が開発されており、8インチなどの特殊なメディアに関しても、通常のドライブでは読み込めないような深いレベルでディスクを読み取って保存できる特殊な機器を駆使し、保存活動を進めています。 8インチ、そして5.25インチは、フロッピーディスクの経年数や形状的特長から、特に劣化が激しく、保存が急がれるメディアです。 ドライブについても、きちんと動作するものを確保するのはとても大変です。

私たちは、多くの人と協力しながら、未来へとゲームを残して行きたいと願っています。

ゲーム保存協会 福田

FDADAPアダプター: http://www.dbit.com/fdadap.html