ゲーム保存協会 Game Preservation Society

ジャパン・タイムズに理事長ルドンのインタビューが掲載されました

0_JapanTimesゲーム保存協会の理事長ルドン・ジョゼフのインタビューが、英字新聞「ジャパン・タイムズ」に掲載されました。
2015年9月16日発行の記事です。
今回は、この記事を翻訳してご紹介いたします。

 


Play it again: One fan’s quest to save old video games

レトロゲームよもう一度 ―とある愛好家の古遊戯救出物語―

BYデイブ・クレーカー

ジャパン・タイムズ 2015年9月16日の記事

 

私たちは小津安二郎氏が日本を代表する映画監督の一人であると考えていますが、彼の初期作品のいくつかは、映画が残すべき芸術作品としてではなく、使い捨てのエンターテイメントだと考えられていた時代があったせいで、私たちの歴史から完全に失われてしまいました。ゲーム保存協会理事長のジョゼフ・ルドンはビデオゲームが同じ状況になってしまうことは望みません。

「例えばオペラを『古い音楽』とは分類しませんよね。クラシック音楽です。ビデオゲームも同じです。ここにあるようなゲームタイトルはクラシックで、クラシック音楽と同じような価値があるんです。薄汚い攻略本から、どんな風にメディアが包装されていたかまで、ベストセラーのもの以外でも、全てを保存しなければなりません。」

ネットワーク・エンジニアを職業にする彼は、満面の笑みをたたえ、語り口はまるで整頓された配線コードのように理路整然としています。フランス生まれの彼は、日本のPCレトロゲームの研究と収集のために2000年に東京へ引っ越してきましたが、日本では古いコレクションがレトロゲームのコミュニティーごと萎縮し消え去っていることを目にして衝撃を受けました。彼はネットオークションや掲示板を通じて、レトロゲームに対する情熱を共有する仲間たちとコンタクトを取るなどして、少しずつ自分なりのやり方で研究を進めていきました。そして2011年、いわばサブカルチャーのゴミ収集所からゲーム文化を救い出すため、NPO法人『ゲーム保存協会』を設立したのです。

私たちは東京の等々力近郊にある4階建てのマンションでインタビューを行いました。ここは団体の作業スペース、アーカイブ、そしてルドンの自宅として使われています。レトロゲームに向き合う彼の姿勢は素晴らしい。しかしなぜ今日の人々が、例えば(適当に収納棚からパッケージを引っぱり出してみた)『森田の将棋』という、将棋のシミュレーションゲーム(かな?)のことを気にかける必要があるというでしょうか。ルドンはよどみなく答えました。

「あぁ、森田さんは美しいアルゴリズムを書いた本当に特別なプログラマーですよ。当時はコンピューター雑誌が主催して読者の作品コンテストをよく行っており、森田さんはその受賞者でした。賞金一千万円に作品毎への著作権料がもらえる、なんていうこともあったんです。」

ルドンはアーカイブしているどんな作品についてでも、ちょっとした逸話が語れます。ディスクは単なるデータ以上のものなのです。こうしたディスクは現在のゲーム産業が拠って立つ忘れられた歴史を語っています。当時のビル・ゲイツのような独学プログラマーたちが、雑誌コンテストでの成功を経て任天堂やセガやソニーといった会社に入り、ソフトウェアの開発をしていったことを想像して見て下さい。

しかしながら、国のビデオゲーム博物館内の殿堂で、そうしたプログラマー達の名前を見ることはできません。そもそも日本にはそんな博物館など存在しません、はい終わり。ビデオゲームは日本のクールジャパン・ソフト戦略の一角をなしているのに、なぜ政府はこれらゲームを、映画やアニメと同じように、保存―あるいはその芸術性を宣伝する動きに乗り出さないのでしょうか?

これはどうも各機関の間での利害関係の問題のようです。ルドンは以前、政府が主催するビデオゲーム・データベースのアドバイザーを頼まれましたが、その内実は立ち入り禁止で近寄れないことだらけだったのです。

「政治家はどこに資金が流れるべきかを事前に決めています。団体組織を作る唯一の焦点は政治家自身の天下り先確保にある。ただビデオゲームの場合、多くの政治家はイメージ的にそんなものに自分が関わっていると見られたくないとも考えている。」と彼は説明します。こうした微妙な背景のもとに進められる困難な交渉事は、時間の無駄でした。時間はルドンが決して無駄にはできない重要なものの一つです。彼の試算では、フロッピーディスクの寿命は理想的環境化で保存しても30年ほどです。湿度の高い日本の夏は理想的環境からは程遠いのです。

ルドンは建物2階の室内環境をコントロールしている保管室に私たちを案内してくれました。そこは20,000枚のディスクを保管する特注ケースが天井まで整列した巨大なウォーク・イン・クローゼットになっています。この部屋は室温が年中20度以下に保たれ、湿度が60%を上回れば、近隣にいる団体メンバーにアラーム信号が送られて、何が起きているか確認しに誰かが駆けつけるようになっています。万が一カビがディスクにこびりつけば、ゲームオーバーなのです。

写真:ゲーム保存協会のメディアルーム

それでもこれは完全とは言えない一時的な解決法でしかありません。彼の目指すエンディングは、ディスク内のデータを安定した動作環境に移動させること、つまりマイグレーション(移行)なのです。ディスクにはコピープロテクトがついています。このプロテクトをクラックしてコピーされたデータは真正性のないデータで、プロテクトを外したことによるバグが発生している危険もあります。デジタル保存の厳しい審査基準に基づけば、クラックされた改変データは、シミの付いたモナ・リザのレプリカ同様に無価値なものとみなされるのです。

そこで登場するのがディスクのデータをクラックせず完璧な状態で転送することができるKryoFlux(クリオフラックス)というクレジットカードサイズの小さなデバイスです。この機材を導入することで、昔のパソコンのディスクドライブから全く改変されていないディスクの完璧なコピーを現代のマシンに移すことができるのです。これはMRIが我々の脳の動きをマッピングするのと似たやり方で、ディスクの磁気記録をマッピングします。ここから、ゲームをエミュレーターで起動することもできますし、あるいは新しいフロッピーディスクに書きこんで元のハードウェアで同じように起動させることもできます(もちろんハードウェアがまだ動く状態だと仮定して)。

ゲームはまず何よりも、遊ばれるために存在するものなので、ルドンと彼の仲間たちは古いアーケード筐体のメンテナンスも手伝っています。

「クラシックカーの修復と同じだと考えてください。」と彼は言います。「もちろん、その車のエンジンを新しいパーツで再生産することはできます、ただ乗り心地は変わってしまう。愛好家はオリジナルの方により高値を払います。まさに金持ちの道楽ですね。」

説明のため、彼は特注品のピンチローラー(テープリールを巻き取るための回転部分のパーツ)が入った箱を取り出しました。ルドンが復元するまで失われていたDECOカセットシステムに使われたものです。原型だけで10,000円がかかりました。彼は80個注文しました。

もし、こんなゲームの歴史に触れたいと思ったらなら、ルドンおすすめの秋葉原にある「ナツゲーミュージアム」というゲーセンと、「中古ソフトショップBEEP」に行ってみるといいでしょう。彼の理想は、レトロPCゲームをより一般に普及させるような公式エミュレーターの開発なのですが、資本が限られています。NPOに17人もの中心メンバーらがいるとしても、次のレベルへ活動を進めるためには政府や産業界の支えを必要としています。

ルドンのレトロゲーム趣味は完全に彼のライフワークになりました。もしこのアーカイブ事業が全て完了したら、次はどうするのでしょう?

「今のところ、私がまだ遊んでいないクラシックゲームの長いリストがありますから」そして彼は、「そうなったら、いつの日かついに私もそのゲームたちを座って遊ぶ時間がもてるでしょうね。」

 


NPO法人ゲーム保存協会についての情報は次のサイトを参照
ゲーム保存協会 www.gamepres.org

ナツゲーミュージアム www.t-tax.net/natuge
BEEPショップ www.akihabara-beep.com/info/


→元のジャパンタイムズ記事

Galactic Wars 1

日本ファルコムの初作品、『ギャラクティック・ウォーズ1(GALACTIC WARS 1)』の保存

ゲーム保存協会は、文字通りゲームの保存を目的として日々活動しています。保存の対象はアーケードゲーム、家庭用ゲーム、PCゲームなど、幅広くあらゆる範囲にまで及びますが、そんな中でも今回は日本のPCゲームの黎明期に日本ファルコムから発売された『ギャラクティック・ウォーズ1(GALACTIC WARS 1)』の保存についてご紹介します。

■日本ファルコムの歴史

東京の立川に居を構える日本ファルコムは、1981年に「コンピューターランド立川」として設立され、アップル製品を中心にコンピューター製品を販売するショップでした。その翌年には初めて社独自のパーソナルコンピューターゲームの販売を開始しています。1984年の『ドラゴンスレイヤー』や1985年の『ザナドゥ』、そして、1987年の『イース』『ソーサリアン』と言った数々のゲームのヒットでPCゲーム界の雄として君臨し、近年においては『英雄伝説』の軌跡シリーズが有名な、老舗のコンピューターゲーム企業です。

■『ギャラクティック・ウォーズ』とは?

その日本ファルコムの記念すべき初作品は『ギャラクティック・ウォーズ1』と言うSFシミュレーションゲームでした。

『ギャラクティック・ウォーズ1』の制作者は、当時コンピューターランド立川に客として足繁く通っていた木屋善夫氏。後にドラゴンスレイヤーシリーズの作者として有名になり、当時のPCゲーム系雑誌などで”スター・プログラマー”としてもてはやされ、人気となったその人です。

『ギャラクティック・ウォーズ1』は、木屋氏が趣味でパソコンのプログラムを弄っていた中で生み出されたゲームの一つで、コンピューターショップだったファルコムがそれを製品化して発売すると言う形で世に送り出されました。ちなみに、日本ファルコム黎明期のソフトのほとんどはこうした常連客による”持ち込み”であり、社として本格的にゲームソフトを開発するようになるのは、自社ソフトの販売が軌道に乗ってきた1984年頃のことでした。

BASIC言語で作られた『ギャラクティック・ウォーズ1』は、まず最初にファルコムより木屋氏に貸与されたCASIOのFP-1100で発売されました。 その後NECのPC-8801、PC-9801と順次発売されましたが、当時  無名のいちショップに過ぎないメーカーによって製造・販売されたパッケージの数は、当然のことながら極僅かなものであったため、今現在では中古ショップやネットオークションなどで見かけることのほとんどない、極めて希少価値の高い作品となっています。

■『ギャラクティック・ウォーズ1』の実物に巡り合うまで

そんな”レア”な『ギャラクティック・ウォーズ1』、ゲーム保存協会では、最近実物と巡り合い、保存する事に成功しました。きっかけは、筆者が制作者の木屋善夫氏と交流を持てた事でした。

なんと、木屋氏は日本ファルコムにてご自身が開発されたゲームのパッケージのほとんどを未開封の状態で所持していました。ご本人は記念のつもりで持ち続けていらしたようですが、この事が保存にとって大変有意なものとなりました。

木屋氏との交流を重ねる中で、保存活動の説明や意義などを話す機会に恵まれ、所持されているパッケージの貴重さと存在の重要さを説明しましたところ、木屋氏のご厚意によって未開封状態の『ギャラクティック・ウォーズ1』(PC-8801) を保存のためにお預かりすることができたのです。

■フロッピーディスクのデータ保存

こちらが木屋氏からお預かりしたパッケージです。

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高温多湿な日本では、まず第一に問題になるのが”カビ”になります。カビは湿気があるとフロッピーディスクの磁性体で成長しやすく、カビが付いた状態でディスクを読み込もうとすれば、データの読み取りの妨げになるばかりでなく、ディスクの破損にも繋がってしまいます。

パッケージを開封します。緊張する瞬間です。

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開いて出てきたフロッピーディスクのスリーブとマニュアルの紙は、一見するとカビもなく綺麗な状態に見えましたが、よく見ると水分を吸って乾いたときに出来るような皺がよっていて、湿気に晒されていた状態にあったことを伺わせました。

そして肝心のフロッピーディスク。一見すると状態は良いように見えましたが、平行にして見てみるとディスクそのものに”たわみ”が確認され、果たして無事に読み出せるかどうか何とも言えないと言う状態でした。また、磁性体の部分を回転させながら丁寧に見て行った結果、大きなものではなかったものの、数か所にカビと思しき物も確認されました。

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保存作業の前に、まずはカビを落とすことから始めます。カビが発見された部分に100%のイソプロパノールを塗布して、丁寧にカビを落としていきます。

一通りカビを落としたら、次はディスクの状態の確認をします。2Dのディスクは40トラックですので、データが入ることのない41トラック目の部分を読み込んでみて、物理的にディスクどのような反応が起こるのかを確かめてみます。

読み込んでみた結果、ディスクの磁性体が剥がれたり傷ついたりはしませんでした。ディスクは読み込みに耐えられる状態であることが確認されましたので、そのまま保存作業へと移ります。

保存にはクリオフラックス(KryoFlux)を使用します。クリオフラックスとは、フロッピーディスクの情報を根源から読み出すことのできるハードで、日本国産のゲームを保存するために現・ゲーム保存協会の理事長ルドン=ジョゼフ氏が開発に関わって誕生したデバイスです。
『ギャラクティック・ウォーズ1』のディスクは既に30年の年月が経過していますので、あと何度読み込める状態なのか分かりません。できれば一度の読み込みで一気に保存を完了させたいところですが、保存作業を行ってみたところ、残念ながらデータとして読み込めない部分が1か所、読み込みが正常であるか疑問のある不安定な部分が1か所でてきてしまいました。

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上の画像はフロッピーディスクの裏表の読み込み状況を可視化したもので、緑色の部分がフォーマットされたセクタ、濃い緑の部分にはゲームのデータが入っています。今回の読み込みでは濃い緑になっているべき部分の一部が青い状態になっており、読み込みが何らかの原因で阻害されていることが分かります。

ディスクを取り出し、もう一度カビのあった部分のクリーニングを行って、再度保存作業します。その結果、前回読み込みが不安定だった部分は、再度の読み込みでも全く同じ結果が出たため、正常に保存されていると判断できました。

しかし、読み込みのできなかった部分は依然読み込めないままです。あるいは原因はカビや埃ではなく、ディスクそのものにダメージがあるのかもしれない…、そんな不安を抱きながらも、祈るような気持ちで再度クリーニングし、もう一度保存作業を繰り返します。

丁寧にカビを落とすこと3度目、その結果は…

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見事読み込みに成功しました!

前の画像で読み出せていなかった青い部分が、今度は濃い緑になっています。現場に居合わせた一同が、安堵と喜びで沸いた瞬間でした。

こうして無事『ギャラクティック・ウォーズ1』のディスクは保存に成功しました。保存されたデータから、エミュレーターで遊べるようにディスクイメージへと変換することも可能です。

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このゲームは銀河系連合軍の惑星M23に第三帝国の宇宙艦隊が総攻撃をかけてきていると言う設定で、プレイヤーは連合軍α艦隊の総司令官となって惑星を敵艦隊から守ります。難易度は1~3のレベルを選択可能です。惑星(PLANET-M23)と2機の艦(FALCONとUNICON)、そして惑星に3機配備されている偵察機に指令を出して敵艦を探し出します。指令ターンには時間制限があり、メーターが円を一回転する間に指令を終えなければならず、ある程度のリアルタイム性があります。この辺りは後の『ドラゴンスレイヤー』にも通じている要素です。艦隊と偵察機には方向(360°の範囲を15°ずつの細かさで24方向へ指定)と速度(1~50)の指定が可能で、各艦が敵艦隊と遭遇すると、あらかじめ設定した攻撃隊や護衛隊の数値の下で戦闘が開始され、3機の敵艦隊を全滅させればクリアとなります。疑似リアルタイムの中で戦略性のある判断が求められるゲームで、PCゲーム黎明期の当時としては“遊べる”部類に入ります。

ちなみに、『ギャラクティック・ウォーズ1』は、起動直後にディスクのブートプログラムの部分を一度削除し、ゲーム本編が始まった後に削除したブート部分を復活させるという挙動をします。 ゲームを遊ぶために起動した後、正しい手順でゲームを始めないと、データが失われてしまいます。 ゲームのプログラムリストをコピーさせないための、一種のコピープロテクトと思われますが、かなり“意地悪”な仕掛けです。そのため、仮に開封済みのパッケージソフトを何らかの形で入手できたとしても、データ内容が無事であるかどうかは未知数であり、未開封状態の『ギャラクティック・ウォーズ1』が現存することは保存にとって、とても重要なことでした。

■ジャケットとマニュアルの保存

保存を行うのはフロッピーディスのデータだけではありません。パッケージのジャケットやマニュアルも保存の対象となります。次は、スキャナーを使ってジャケットとマニュアルの保存にとりかかります。

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紙が曲がった状態だと、スキャナーの天板と紙が曲がった部分の間で、若干の隙間が生じてしまうため、綺麗にスキャンすることができません。そのため、パッケージの紙はあらかじめ箱から取り出して、しばらくの期間、紙を伸ばした状態でファイルしておきます。

実際に スキャンを行ったのは、半年以上が経過した頃 です。半年前と比べると、曲がっていた紙は平面に近い状態になっています。
スキャンにあたって下準備をします。まずは、スキャンした画像に埃が混入しないよう、天板や周囲は専用のクリーニングキットで丁寧に拭き取ります。スキャナーの自動補正の機能を使うと、取り込んだ画像が意図しない状態に補正されてしまうことがあるため、これらの設定は全て外して生の状態で画像データが取れるようにします。 取り込み後の画像補修をしやすくするため、解像度は高めの800dpiに設定します。

スキャナーの天板上では、取り込むことができないスキャナーの端の領域部分に定規を設置し、そこにパッケージの紙を合わせます。これによって取り込んだ画像の大きさが目視で判るようになります。また、画像の背景になるように色干渉が少ない灰色の板を差し込みます。板にはカラーガイドが付いており、スキャン対象物の色褪せ具合を判別することができます。

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スキャナーの天板上では、取り込むことができないスキャナーの端の領域部分に定規を設置し、そこにパッケージの紙を合わせます。これによって取り込んだ画像の大きさが目視で判るようになります。また、画像の背景になるように色干渉が少ない灰色の板を差し込みます。板にはカラーガイドが付いており、スキャン対象物の色褪せ具合を判別することができます。

09-201509

取り込んだ画像はPhotoshopを使って修復を行います。紙に付いた傷や埃など丁寧に除去していきます。今回は幸いにもジャケットのダメージが少なかったため、大規模な修復の必要はありませんでしたが、紙の破れや色褪せなどが大きかった場合は対象物を複数用意しなければならなくなることもあります。

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修復完了したジャケット画像がこちらです。

元々の紙自体がオレンジ色であったため、本来のジャケット画像は白黒となります。
この当時のファルコムのパッケージでは機種別に使用する紙(色など)が異なっていた可能性が高いため、FP-1100版やPC-9801版はまた別の色のパッケージであったと思われます。
修復された画像を元と同じ紙に印刷をすれば、パッケージの再生も可能と言うことになります。

■終わりに

こうして、現存すること自体が稀なゲームソフトウェアの一つを、幸いにも無事保存することができました。

ゲーム保存協会では、団体に参加している協会員によって既に多くのゲームを収集していますが、それでも未だ所持していない貴重な作品はまだ数多くあります。また、こうした数多くの作品の保存を行うのは多くの手間がかかるため、限られた人数では実際の保存作業はなかなか進みません。日本の文化財であるゲームの保存に携わりたいと言う方がいらっしゃいましたら、是非一緒に活動して頂きたいと願っています。ちょっとしたご助力でももちろん構いません。もし、何らかの形で保存にご協力いただける方がいらっしゃいましたら、こちらをご覧頂けたら幸いです。

当団体では、今後も現存する”全てのゲームの保存”を目標に日々活動をして参ります。

ゲーム保存協会 金澤

※パッケージやゲーム画像などの著作権は著作者に帰属します。

Shunga

21世紀のジャポニスム ――エロゲーも文化だ!(後編) ――
ゲーム保存協会の名物理事長、フランス人ジョゼフが語る本当のクール・ジャパン

敬遠される“下”文化

古いものを破棄するだけでなく、日本では特定の主題や傾向を持つ文化的活動が、そもそも文化としての受け入れを拒否されるケースがあります。政治的アピールの強い作品や残酷な表現など様々なケースがありますが、特にわかりやすいのが「エロ」=性要素のある作品群。

海外では芸術的表現として認められるものが日本では受け入れてもらえず、美術館など保存や研究の場から排除されてしまう例が散見されます。角々にあるコンビニにはあんなにエロ本が積んであるのに、なぜかそれがアートになると規制がかかるなんて、フランス人の目にはとても奇異にうつります。

最近話題になった春画展などはそのよい例です。春画は海外ではその独自の表現が高く評価され美術作品として鑑賞の対象になっています。しかしながら日本では、この100年前の性表現が芸術的表現として評価されるよりも性的刺激剤の一種、性的な「商品」としてタブー視されたままのようで、大規模な企画展もスポンサーが付かなかったり苦情を恐れて開催に踏み切れなかったり。紆余曲折あってようやくこの9月に都内で展覧会の開催が決まったそうですがビックリです。映画でも大島渚の「愛のコリーダ」など、芸術性を高く評価されているにも関わらず日本ではいまだに完全版の上映が出来ないままのものが沢山あります。

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パリのピナコテーク美術館で行った春画展(2014-2015年)


商品としてのエロ、芸術としてのエロ

新宿を歩けばそこかしこに風俗店の看板がかかり、子どもがよく通る街道のコンビニには半裸の女性を表紙に飾ったポルノ雑誌が陳列してあるのに、美術館では真剣に創作活動をする作家の作品が時に規制され、有名な写真家の写真にはモザイク補筆、映画研究家は特定の作品の正しい上映を見るためにヨーロッパまで来なければならないなんて、とても不思議です。

たとえばフランスでは、“商品としてのエロ”と“芸術としてのエロ”ははっきりと区別されており、商品としてのエロは人目につかない場所できっちり管理されますが、美術館など芸術表現を鑑賞する場では作者の意図や表現を尊重し、オリジナルの形のまま展示し自由に人々が批評や研究ができるようにします。また、元が商品として作られたものであっても、一旦芸術を語る場に持ち出されたら、それはもはや商品ではなく作品として正面から鑑賞され、芸術的・文化的な面から論じられる対象になります。

我々はこうした自由な表現と議論の場があることを当然のことだと思っていますし、もちろんセンセーショナルな作品が人々に激しく批判されることもありますが、そうした議論も含めて作品が生み出していく新たな「文化の場」があること自体を重要と考えています。

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フランス国会図書館の電子書籍で閲覧できる春画の一つ


失われる文化財

日本は社会的な「常識」や「秩序」の意識が高く、芸術はむしろそうした日常の意識を邪魔しない範囲内で活動するように制限されているのではないでしょうか。江戸時代の春画や80年代のエロティックな映画が今もまだタブー視される日本では、そうした作品を保存研究することにまでブレーキがかかることがあります。性的表現だけでなく、商品として開発されたもの、芸術として鑑賞する人が少ないもの、大多数の人が芸術とは認めないものなど、日本では展示や研究が難しいように感じます。ゲーム保存はその最たる例でしょう。

海外ではすでに文化としての保存研究がはじまっており、日本でも少しずつではありますが大学や国が動き出していますが、そもそもが「商品」として作られた背景から、商売と切り離し、純粋に文化として展示したり保存したり研究したりしてはいけない雰囲気がとても強いです。浮世絵だって、はじめは「商品」でした。いまや世界中の人が芸術作品として鑑賞するダ・ヴィンチの作品群だって「商品」として発注されて描かれたものでしたし、バッハが作曲したミサ曲は教会の依頼でミサ用に制作された「商品」です。

もしヨーロッパの人が「これは単なる商品でアートじゃない」といって破棄していたら、世界には一体何が残っていたでしょう?文化財は、文化財となってから遺したのでは遅いのです。日本は過去、多くのものを「これは芸術ではない」といって失ってきました。そろそろ、こうした流れを変えなければなりません。

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映画、団鬼六 黒薔薇夫人(1978年)日活ロマンポルノ


たとえば、エロゲー。

みなさんは今年、文化庁が主導となってメディア芸術データベースというコンシューマーゲームのデータベースが発表されたのをご存知でしょうか?これは漫画などとともにゲームも文化として認めましょう、ということで国が作ったデータベースなのですが、このデータベースにはファミコンとその他プラットフォームの多くのエロゲーに関する情報が排除されているのをご存知ですか?

私は、これまで芸術作品として受け入れられていなかったゲームを国が主導を取って芸術として扱う姿勢はすばらしいと思いますが、春画同様、性的表現を含む作品は研究保存のリストからはずすというのはおかしいと思います。日本のエロゲーというジャンルは、世界には例がない本当に特異な文化現象で、大変興味深いものです。エロゲーは海外のポルノとは異なる創意工夫の数々、ある種の日本らしさが出た非常に面白いジャンルだと思います。特に80年代のエロゲーはプラットフォームの問題があり、リアルタイムに海外に紹介はされていませんでした。独自性や創造性から考えて、今後これらエロゲーが再評価され文化的価値があるとしてヨーロッパで展覧会になってもおかしくないと思っています。

クール・ジャパンといって漫画やアニメなどの「クール」な日本の文化を海外に紹介したいのなら、ゲーム分野ではぜひ80年代エロゲーを、国を挙げて海外に紹介してほしい。しかし実際はリストから消去され、日本側が文化としてエロゲーを取り扱うことに“恥ずかしさ”を感じている様子なのです。

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ゲーム、「オランダ妻は電気ウナギの夢を見るか?」の表紙(1984年)


未来のために今やりましょう

たびたび、ゲーム保存協会に「まさかエロゲーの保存なんてやらないでしょう?」といった質問をいただきますが、私たちはどんな資料でも今後文化的価値が再評価される可能性があると思っていますし、多くの機関から虐げられている資料だからこそ、エロゲーの保存にも積極的です。

私はいつも言っていますが、80年代の日本のゲームは劣化消滅すれば世界の歴史から完全に消えてしまいます。80年代の国産PCはほぼ日本にしか存在せず、当時のFDは次々にカビが生えデータが消滅しています。過去それが商品として作られていたとしても、あるいはそれがエロティックな要素を含んでいたとしても、

日本にしかない希少かつ脆弱な文化資料を、日本は優先的に保存研究するべきではないでしょうか。世界を魅了する素晴らしい日本の文化をこれからもどんどん増やしていくためにも、ぜひ、エロであろうが商品であろうが文化は文化としてクールに研究保存できる本当のクール・ジャパンを作ってほしい。私も、誰よりも日本を愛する一人の市民として、ゲーム保存というフィールドで、文化大国としての日本作りに協力して行きたいと思っています。

ゲーム保存協会 ルドン

 

※パッケージ画像などの著作権は著作者に帰属します。