Sadao YAMANAKA (山中貞雄)

ゲーム保存協会が目指しているもの

当団体「ゲーム保存協会」は、その名の通りビデオゲームの保存を目指す団体です。そういう話をする際に「何を残すんですか?」と聞かれることがままあります。

それに対する答えは決まっています。

「全部」です。

非常にアッサリとしすぎているせいか、聞かれた方から意外そうな顔をされる事が多くあります。その気持ちは分かります。

しかしこの答えは必然的に導かれるものです。一品物の絵画や工芸品であれば「何を選んで」コレクションを形成するか、というのは美術館や博物館の重要な目的となりえますが、元が(基本的には)量産品であるビデオゲームについては「全部」というのが理想的な答えとなります。

このあたり、直感的には分かりづらいところがあるようです。

本、雑誌、映画、TV番組、音楽などを「メディア芸術」と呼びますが、比較的近年のものであるゲームも、こうした作品と同じ性質を持っています。

こうしたメディア芸術の歴史はそれ以前からある絵画や彫刻などと比較して歴史が浅いのですが、そのために保存に対しての姿勢というものが考えられるようになった時期もかなり遅く、残すべき物を残すことができなかった歴史があります。

いくつか例を紹介しましょう。

・映画
映画は1895~1896年頃に実用的な仕組みが発明され、今日に至っています。当初は既にある風景を撮影したものを見せるだけだったものが、様々な技法の開発と共に架空の物語を映像として見せることができるようになりました。
しかし見せ物としての側面が強かったためか、人気が落ちて集客力が落ちた映画フィルムは廃棄されることが普通でした。場合によってはフィルムに使用された銀を回収し、フィルムそのものも再利用するために、映像を洗い落とされたりもしたといいます。「作品」としての価値はその時限りのものとされていたわけです。
結果として、初期のサイレント(音のない)映画の残存率は高く見ても15%程度と言われています。これは日本に限っても事情は変わらず、国産サイレント映画の残存率は当時の10%未満だそうです。
アメリカでは著作権保護のために紙に複写された映画を議会図書館に納める必要があったため、そこから蘇った作品が多くあるといった事情はあるものの、大半は失われて二度と見ることができないと言われています。
日本でも今日では高い評価がなされている、小津安二郎の初期の作品群や、小津安二郎が功績を称える石碑(これは京都に現存しています)まで建てた山中貞夫といった監督の作品の多くが失われています。
映画の保存が意識されるようになった時期は国によって一定ではないものの、1930年代以降であることは間違いありません。映画の世界では、既に取り返しのつかない損失とされています。近年でも「忠次旅日記」(1927年)の一部など稀に当時の作品が発見されることもありますが、あくまで例外中の例外です。これは、当時の素材の性質として劣化が避けられないという事情もからんでいます。
忠次旅日記(監督・伊藤大輔)
【写真】忠次旅日記(監督・伊藤大輔)
懺悔の刃(監督・小津安二郎)
【写真】懺悔の刃(監督・小津安二郎)


・TV番組

映画の世界で起きた損失は、同じ映像を扱うTV業界に教訓を与えたのか?というと、残念ながらあまり影響を残していないようです。

意外にもNHKにすら1980年頃までは全ての作品を残すという意識がなく、多くが失われました。これは当時使われていた放送用の磁気記録のビデオテープが極めて高価で、再利用するために消していたという事情があります。

費用をかけた大河ドラマですら残っていないものが多く、第一回と最終回だけ、稀にそれに加えて総集編の三回しか残っていない、という番組はたくさんあります。ただし、映画の機材を使っていたTVドラマやアニメーションはフィルムの再利用ができず、また単価が安かったためか、消されることなく古いものも残っているようです。例えば、1972年~1986年に放送された「太陽にほえろ!」は今も再放送されたりDVDになったりしています。

「少年ドラマシリーズ」(1972年~1983年)といった実写ドラマや「新八犬伝」(1973年~1975年)「プリンプリン物語」(1979年~1982年)などは残存状況が悪く、NHKでは当時の放送を家庭用ビデオで録画していた人からの募集を続けています。しかし、普及率の高かったVHS方式のビデオデッキが発売されたのが1976年であり、それ以前の番組については今後出てくる可能性は限りなく低いと思われます。例外として「少年ドラマシリーズ」の第一作「タイム・トラベラー」(1972年)の最終回がオープンリール方式の家庭用ビデオテープの録画が発見されましたが、他の四話は未発見です。その後作られた「続 タイムトラベラー」(1972年)は、全話の映像が残っていません。

 

こうした事情の何が悪いのでしょうか。
単純に、昔見たものをもう一度見られない、というのも問題ではあるのですが、だったら当時見た人が全員亡くなられたら解決、ということになってしまいます。
もちろんそうではありません。
懐かしさとは違う、作品としての評価というものはいつの時代でも可能です。古い作品でも、今見て新しい発見があるかもしれません。作品が残っていないということは、そうした評価の可能性をなくしてしまいます。
また、歴史の中での評価があったとしても、作品を見ないことにはそれが正しいのかどうかの検証もできません。それを可能にするのは、作品そのものだけなのです。

なぜ残らなかったのか?の答えは一つではありません。単に経済的な理由だったものもあれば、火事で燃えてしまった場合もあります。例外的ではあるものの、スキャンダルを起こした俳優の出演した映画が意図的に廃棄されたことすらありました。事故を除いては「後から必要になるとは思わなかった」というのが本当のところでしょう。
しかし、後になって価値が出てくる作品というのは確かにあります。
ヒット作を作った作者の過去の作品を見たい、というのは最もよくあるパターンです。ビデオゲームでは「メタルギア」がそういう作品でした。1987年に第一作が、1990年に第二作がMSX2というハードに向けて発売されましたが、以後はあまり取り上げられることがなく、1998年の「メタルギアソリッド」の発売までは埋もれた存在でした。「ソリッド」のヒット後から数年してネットオークションが始まり、それから高値がつくようになりました。「メタルギア」「メタルギア2」共に今では当時の中古に定価以上の値段がついていますが、1995年頃はMSX作品のほとんどに値がつかず、中古の流通自体が止まっている状態でした。

さて、最初の疑問に戻ります。今では有名となった作品ですらろくに値がつかないような時期がありました。しかし後になってその価値が変わり、需要が生まれるということがあります。

その時に残っていなかったら?残念ながらどうにもなりません。見ることのできない作品に価値は生まれず、評価もされず、ただ忘れられていくだけとなります。

それを防ぐためには「全部」残しておくしかないわけです。それをしなかったのが映画であり、TVの世界なわけです。価値は必ずしも金銭的な価値を意味するわけではありませんが、今出したら売れると分かっていても、残っていないから出せない、という作品はいくらでもあるのです。

また、「全部」という言葉にはもう一つ意味があります。「保存に際して、作品の価値判断をしない」ということです。

これは先に説明したように、その時点で価値がないとされた作品でも、後から光が当たることがあるかもしれない……という側面もありますが、もう一つ「価値判断のための議論に時間を裂かない」ということでもあります。

例えばです。発売当時に売れたゲームと売れなかったゲームがあります。どちらかを残すということは、どちらかを捨てるということです。売れなかったゲームは捨ててもよい、とすると、何本以上売れなかったソフト捨てるのか?という調査が必要になります。

これが内容から判断するとなるとさらに難しく、「エッチな内容だから」捨てる、あるいは「つまらないから」捨てる、と考えたとしても、そこに基準を設けるために「議論」が必要となります。しかもこうした基準には客観的な指標はありません。果てしのない議論が必要です。そんなことをしているうちに保存が間に合わなくなる、それを防ぐためにも「全部」保存するほうがまだ早い、わけです。このあたりの考え方は、国立国会図書館などでも同じです。収蔵されていない本や雑誌はありますが、それは納本されなかったためであり、意図して選別したわけではありません。

ビデオゲームはその歴史がまだ浅く、40年程度の歴史しかありません。映画やTVの初期がそうであったように、その時代限りの娯楽と捉えられていた時期が長く、また技術革新の速度が速かった1990年代前半には、一世代前までの作品がかなり廃棄されたことが分かっています。特に8ビットPCの作品については今になって高値がつくことが増えましたが、数年前までかなり安価に流通していました。

ビデオゲームはまだ当時の作者やユーザーが数多く残っています。しかし、映画は当時見た人もいなくなり、作品の発見も望めないものについては、評価されることもなくただ忘れ去られるばかりとなっています。当時いかに高く評価されたとしても、その記事だけでは作品の価値は分かりません。監督が偉くても、評価されても、作品そのものの価値を知ることはできません。TV番組も同様です。

我々は、ビデオゲームで映画やTVの世界で起きた悲劇を起こさないために活動しています。そのために、最初の質問には「全部」と答えているわけです。

現実的には難しいかもしれません。既に完全に失われた作品があるかもしれません。それでも、「全部」を目指して活動することが、先人たちの残した教訓なのです。

ゲーム保存協会 日下

 


<参考資料>

「探検バクモン 禁断の映画パラダイス(前編)」2012/10/30放送
「探検バクモン 禁断の映画パラダイス(後編)」2012/10/31放送
「NHKアーカイブス シリーズ人形劇(1)プリンプリン物語」2012/2/12放送
「NHKアーカイブス シリーズ人形劇(2)新八犬伝」2012/2/19放送・2013/2/17再放送
「MAG・ネット~マンガ・アニメ・ゲームのゲンバ~ 3月号」2013/3/2放送
「NHKアーカイブス 復刻!未来からの挑戦」2015/2/15放送
「映画史探究 よみがえる幻の名作・日本無声映画篇」無声映画鑑賞会、マツダ映画社、株式会社アーバン・コネークションズ・2003年
東京国立近代美術館フィルムセンター・Webサイト
特定非営利活動法人 映画保存協会・Webサイト

 

クイックディスクメディアに関する保存技術の開発

ゲーム保存協会では「劣化消滅が近いと思われるゲームの保存」に取り組んでいます。
カートリッジなどで供給されていた半導体メディアやCDなどの光学メディアに対し、フロッピーディスクやカセットテープなどの磁性体メディアで供給されていたゲームの劣化は早急な対策を要する深刻な問題であり、ゲーム保存協会ではこれら磁性体メディアの物理的およびデータ的な保存技術を優先的に研究しています。

■「クイックディスク」とは?
そのような磁性体メディアの一つにミツミ電機が1984年に発表した「クイックディスク」があります。
当時すでに5インチフロッピーディスクなど他の磁性体メディアは存在し、ある程度の普及は認められていましたが、それらは非常に高価であったため、パーソナルユースとしてはカセットテープによるデータ保存が一般的でした。
そこへ徹底したコスト追求のもと開発を行いOEMで7000円の供給という低価格ドライブとしてクイックディスクは発売されました。
SharpのMZ-1500やMSX用の外付けドライブとして国内パソコンに採用され、MZ-1500では意欲的にゲームなどが移植、発売されることとなりました。
しかしながら他のメディアと互換性がないことや、5インチなどのフロッピーディスクがドライブ、メディアとも低価格で提供される時代へ変化し、残念ながら広く普及するメディアにはなれませんでした。

一方で、クイックディスクは広く普及しなかったこと、またドライブやメディアの情報が少ないことから、「コピーが困難なメディアでもある」という強みがありました。これらのことから1986年にファミリーコンピュータ ディスクシステムとしても採用されたという話もあります。当時もっとも売れていたコンシューマー機の周辺機器として発売されたことで、クイックディスクのマーケットが急速に拡大しました。
しかしカートリッジに使用されるROMの大容量化と低価格化が進むにつれ、扱いの容易さや速度の優位性などからROMカートリッジが普及することとなり、次第に衰退しました。

このようにクイックディスクは短い期間ではありましたが数多くのゲームが供給され、日本のゲーム保存の上で避けては通れないメディアです。現在ではその供給は終了しており、資料が少なく、保存研究は困難な状況にありました。

■保存方法とその背景
クイックディスクに使用されている素材は、一般のフロッピーディスクと変わらない磁性体であるため、物理的な長期保存の方法は、フロッピーディスクと同様と考えられます。
そうなると、フロッピーディスクと同じく、温度、湿度によってはカビが発生するため、紙によるスリーブ とは別に保存した方が、長期保存には優れています。これらの注意は以前にも報告させていただいております。リンク先を参照ください。
またコンシューマゲームに供給されていたことにより、その対象が子供向けであったため、扱われ方によって生じた傷などの損傷が多く見られます。
後年では、メディア保護が可能なシャッター構造を持ったディスクも使用されましたが、大半はメディアがむき出しのディスクであり、容易に汚れや破損が発生してしまう構造でした。
またパソコン用のソフトウェアは流通量が少なく、非常に収集が困難なジャンルの一つです。
このような状況からクイックディスクのデータ保存は急務として、数年前より対応を模索していました。

デジタルデータの保存に関しての状況は、1998年にエミュレータでの使用を目的としたイメージ形式が広く普及した後は、発展がない状態が続いていました。
このイメージ形式はエミュレータとしての使用には有用でしたが、プログラムやデータ部分のみを抜き出したバイナリデータのため、多くのデータが欠落しており 、文化財として後世に残すことを目的とした保存には精度が低く、到底精度の及ばないものでした。さらに多く流布しているデータには所有者によるゲーム進行状況などのセーブデータが混在しており、未使用なオリジナルディスク からの保存は、ほとんどなされていない状況でした。
このような背景により、ピュアなオリジナルデータの保存を最終目標とし、新しいデータ保存技術の開発や、ファミリーコンピュータディスクシステム用に発売されたゲームを新品未開封状態で収集する活動も、ゲーム保存協会メンバー有志 によって開始されました。

■保存技術の進展
「クイックディスク」のデジタル保存方法は、当初はフロッピーディスクの保存方法として当協会でも推奨しているKryoFlux(http://www.kryoflux.com/)の機能を拡張する形でSoftware Preservation Society(http://www.softpres.org/)と対応を検討していました。しかしKryoFluxの開発・研究は一般的なフロッピーディスクを優先しており、クイックディスクへの対応は時間を要するという結論となりました。同じころアメリカで同様の活動を行っている人物が存在していると情報を得ましたが、明らかな報告もなく、そのプロジェクトは消滅してしまいました。そのため協会自ら、目的とする精度のデジタル保存が可能なデバイスを開発する必要があると考え、メンバーによって研究・開発を行いました。

まず資料の整理と、サンプルとしてのドライブやディスクを収集しました。国内パソコン向けの機器やメディアは収集が困難であったため、現在でも多くのサンプルが存在しているファミコンディスクシステムを中心に調査を開始しました。
クイックディスクに関する資料は非常に少なく、その制御信号などは手探りで調査することとなりました。
また、ドライブもほとんどのものがベルトの交換などが必要であり、その方法によっては読み込みができなくなってしまうため、正しい調整方法も検討が必要でした。調整方法やドライブのバージョン違い、劣化の程度によって、出力されるデータにかなりバラつきがあることもわかりました。
過去の有志によるファミコンディスクシステムの調査結果はかなり参考になりましたが、そもそもの情報が正しいかを検討する必要があり、それらの情報の正当性を評価しました。

また、「どのようなデータ形式でデータを収集するべきか」も検討が必要でした。過去の雑誌に掲載された、古いPCを利用したファミコンディスクシステムの読み込み方法があれば、そのシステムをすべて再現して、どのようなデータなのか確認して、検討 を行いました。その他にも既存の読み込みツールを可能な限り収集、作成してデータの検討を行いました。


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写真左「バックアップ活用テクニック10号」に掲載されたPC-8801シリーズ用ディスクシステムのReader/Writerの記事
写真右:実際のReader/Writerボード写真


結果として、それらは目指しているものには、遠いものでした。ただのバイナリデータではなく、ノイズや書き込みの有無なども評価できるデータ形式を選択する必要があったためです。最終的にドライブから出力されるパルス間隔の時間評価を行い、いわゆるタイムカウント方式としてrawデータを収集する形が最も正確にデータ収集可能であると考えました。

■データ読み込みから得られたもの
これらの情報をベースにゲーム保存協会は、デジタル保存用デバイスのプロトタイプ制作を行い ました。プロトタイプが完成し、データの読み込みが可能となったのが2013年の暮れでした。
出力されたデータを見てみると様々なことがわかりました。各ブロックの終了位置にはノイズがありました。これはCDのようなDiscAtOnceでの書き込みを行わず、ブロックごとに書き込み制御を行う形でマスタリングがなされている可能性が示唆されました。またデータ終了後には、全くパルスのないNullデータのディスクと最後まで一定のパルスが書き込まれているディスクがありました。それはメーカーによって異なる傾向があるようでした。
さらに当時のコピーツールでコピーしたディスク、既存の読み込みや書き込みのツールによって作成されたディスクとオリジナルを区別する方法も、次第に理解できるようになりました。

このrawデータを元にバイナリデータへの変換を行い、一部のソフトに見られた特殊なコピープロテクトについても詳細な調査が可能となりました。従来のイメージ形式の仕様上、特殊なコピープロテクトが存在するディスクの再現は不可能であることがわかりました。

同時に、得られたデータの正当性を証明する方法やリマスター方法を模索するため、書き込みを行って評価することも行いました。
これは比較的容易に作成可能でしたが、書き込みを行ったディスクとオリジナルを比較すると、更に問題がわかりました。オリジナルのディスクには、データの入出力が可能となるReady信号の範囲外にもデータが存在していたのです。


R1-QDon

R1-QDoff

写真上:Ready信号ON
写真下:Ready信号OFFの画面

※画面のシグナル上はReady信号、下はReadData。
Ready信号の有効範囲外にもパルスが出力されている。


改良を重ねることで、この範囲のデータを読み込むことは可能となりましたが、正しく書き込むためにはドライブの改造が必要でした。何故なら、マスタリングに使用されているドライブは、「一般に販売されたものとは全く異なるものである可能性が高い」と考えられたからです。

■保存作業の進展
この段階で、メンバーによって収集された未使用のオリジナルのディスクからのデータ保存作業に着手しました。全てのディスクを読み込むために数カ月を要しましたが、現在は完了しています。そしてそれらから、既知のデータベースとは異なったバージョン違いのゲームや分類の誤りがいくつも見つかりました。

次に、MZ-1500に対応するべく、デジタル保存用デバイスの改良を行いました 。当初、WriteGate信号の論理がファミコンディスクシステムと反対であることに気づかず、サンプルのディスクを消去してしまうという失敗などもありました。twitterでの繋がりからドライブやファイル構造の情報提供をいただき、開発を行うことができました。得られたデータを過去の資料と比較すると、過去の資料はこれらのMZ-1500やMSX用に提供されたドライブに関するもので、ファミコンディスクシステムはその書き込み周波数などが独自のものであることなどもわかりました。
現在、MZ-1500用のゲームディスクの保存を行っていますが、プロテクトを独自に解析し、埋もれてしまった歴史を少しずつ紐解いています。

■今後の展望
デバイスの改良も継続し、将来のメデイアやドライブの物理的劣化による破損や故障時にも動作可能とするべく、ドライブエミュレーションを行う機能も実装できました。更に現在ではリマスターが可能な書き込み機能の実装をドライブの改良なども含め、開発を継続しています。

今回開発した技術を利用して、今後も様々な機種のクイックディスクメディアを保存していきたいと考えていますが、MZ-1500やMSXなどのソフトウェアは現存する実物も少なく、多くの有志による協力が必要と考えられます。
これらの保存活動に対しましてさらなる協力者を募るとともに、この経験を活かして次の保存活動へ発展させていく考えです。
クイックディスクで供給されたMZ-1500やMSXのソフトウェアをお持ちの方で、情報提供が可能な方は、保存活動にご協力 いただけますようお願い申し上げます。

ゲーム保存協会 福田

蘇るウォーホールのデジタル・アート

フロッピーディスクに記録された作品は、ゲームだけではありません。
時には、モダンアートだって、フロッピーに記録されていることがあるのです!
本日は、Software Preservation Societyから届いた嬉しいニュースをお知らせいたします。

アンディー・ウォーホールは20世紀のアートを語る上で欠かすことのできない重要人物です。
1960年代以降のアメリカで、大量に消費されるモノやイメージをアートの文脈に持ち込んだポップアート界のいわば重鎮で、キャンベルスープの絵や、鮮やかな色合いのマリリン・モンローは、きっと誰もが一度はどこかで見たことがあるはず。
そんなウォーホールが1985年に残したデジタル作品を収めたフロッピーディスクが、この度、クリオフラックス(KryoFlux)の力で現代に蘇ったのです。

アートの世界で、デジタル技術を使った作品というのは、いつごろからあるのでしょう?
初期の例では1960年代に例えばゲオルク・ニース(Georg Nees)がコンピューターを使って作られた作品の展覧会を行っていたりします。ですから1985年のこのデジタルアートは、特別先駆的な試みだったとは言えないかもしれません。それでも、ウォーホールという当時すでに世界中で活躍していたアーティストが、80年代にコンピューターを使い新たな作品制作に取り組んだことには、歴史的な意味があるでしょう。
今回のフロッピーに収められていた作品は、コモドール社がAmiga1000という当時最先端のコンピューターの性能をデモンストレートするためにウォーホールに依頼したものだったそう。ウォーホールがAmigaで作品を制作する様子を収めたビデオなどが残っており、今回のフロッピー発見とデータ救出に至る経緯もこうした映像資料が一役かっています。

当時の映像:https://www.youtube.com/watch?v=wLvTG5hwa1A

今回のフロッピー救出は、ウォーホールがAmiga 1000を使って作品を制作するこのビデオをきっかけに、その作品を保存したフロッピーをなんとか保存できないかと2011年に動き出したところから始まりました。
最初は古いPCを扱っていたCMUコンピュータークラブがフロッピーの読み込みと再生にチャレンジ。ご存知の通りフロッピーはとてもデリケートなメディアで劣化やデータ消失の危険が高いため、この貴重なデータを専門的なやり方できちんと長期保存できるようマイグレーションしようと動き出したのです。

フロッピーディスクに保存されたAmigaのためのデータ、というのは、古いゲームの保存を行う私たちにとってはお馴染みのシチュエーション。脆弱なディスクを細心の注意を払ってマイグレーションするのであれば、SPS(Software Preservation Society)の持っているクリオフラックス(KryoFlux)の技術が最適です。

クリオフラックスのサイト:http://www.kryoflux.org/

SPSはもともとAmigaの古いゲーム作品をきちんとした形で後世に保存し継承しようという目的で立ち上げられた団体です。
ゲームは他のアートと同じく貴重な文化財で、後世の研究者が困らないようきちんとデータを保存していかなければいけないという強い使命感を持って活動している、国際団体です。NPO法人ゲーム保存協会は立ち上げ以前からこのSPSと協力体制をとっており、クリオフラックスを使ってゲーム保存のための様々な作業を続けています。

もともとゲーム保存のために開発されたクリオフラックスですが、実は現在、高い技術力が国際的に評価され、たとえばイギリス大英図書館で著名作家たちのフロッピーデータの保存に活用されたり、フランス国立図書館(BNF)で資料長期保存のために使われたりしています。日本でも、たとえば一昨年、西陣織の織り機に使われるフロッピーディスクとフロッピードライヴを、劣化や老朽化から救い出すためにこの技術を使って、私たちゲーム保存協会が活動しています。

今回も、ウォーホールのデジタル作品を長期保存するための技術として、クリオフラックスが選ばれています。

実際にどのような作品だったのか、上記リンクからご覧いただくことができます。
1987年の死去まで、アートの最先端を走り続けたウォーホール。当時最先端のコンピューターを用いて作られたデジタル作品は、徹底的に芸術作品の「意味」や「深遠さ」を拒否した彼の姿勢とも関係し、非常に興味深いものです。こうした貴重な資料を残す一助としてゲーム保存を使命とする私たちの技術が活用されたこと、長年ともに動いてきたSPSのメンバーと共に誇りに思っています。

モダンアートも伝統工芸もゲームも、人間が生み出したかけがえのない文化です。
それを後の人々に残したいという気持ちは、みんな同じ。
こうした文化に対する熱い気持ちが、ジャンルを超えてつながり、次世代のより豊かな文化活動を支えていきます。

ウォーホールだけでなく、きっと世界にはまだまだ、劣化の危機から救い出し長期保存しなくてはならない文化財が眠っているはず。私たちは、そうしたすべての文化財のために、これからも活動を続けていきたいと思っています。

ゲーム保存協会 ルドン