過去発行ニュースレター・限定資料の一般公開を拡大しました

ゲーム保存協会の活動をより広く皆様に知っていただくため、会員限定で公開されていた資料を一般向けに公開範囲を拡大いたしました。
今回はニュースレターのバックナンバーだけではなく、限定資料も公開。
「ゲーム保存学 最前線」は、理事長ルドンが2017年に参加したイベントにて限定配布したゲーム保存の学問、重要性を語った全15頁の小冊子で、大きな反響がありました。

■公開中の資料
【ニュースレター】
・日本語ニュースレター 13~18号(2020年度春~2021年事業報告)
・英語ニュースレター 4~6号(2019~2021年度)

【限定資料(冊子)】
・「ゲーム保存学 最前線」(2017年・限定版)

デジタル図書館にてPDFダウンロードいただけますので、ぜひお読みください。

→デジタル図書館(一般公開)

100年先の未来へゲーム文化を遺すため、私たちの活動は、サポーターの皆さまから会費やご寄付で実現しております。国や企業からのサポートもまだ不足しており、一人でも多くの方からのご支援が必要です。
この機会に当協会のゲーム保存への活動を知っていただき、当協会への活動ご支援をご検討いただけますと幸いです。

FM音源夜話【GPS Newsバックナンバー】

※【2020年12月発行 GPS News vol.12掲載】本記事はゲーム保存協会の過去の活動を知ってもらうことを目的とし、当時の内容で掲載しています。

ゲーム音楽に多くの影響を与えた、ゲーム保存協会の名誉会員・古代祐三さんが当時使っていた「FM音源」とは一体どんなものだったのでしょう?当時を振り返りつつ、エッセイ形式でお届けします。


80年代のマイコンファンなら、みんな大好きエフエム音源。
FM音源は、音の三要素(音量、音程、音色)全てを再現できる画期的なシンセサイザーです。ジョン・チャウニング博士という人が論文にして、その筋のヤマハ社が実用化したスゴいもの。
何がスゴイかって、FM音源は、オペレータというサイン波発生器の別のサイン波をかけ合わせて、少ないパラメータで複雑で多彩な波形(音色)を作り出すことができる。得意不得意はもちろんあるけれど、ピアノ、ブラス、ストリングスからベース、ドラム、はたまた人の声っぽい音まで、様々な音を出すことができるのがスゴイ。

マイコン最初期(80年代初頭)はBEEPでピーという程度の音しか鳴らせなかったのが、矩形波が出せるPSGという音源チップが登場して、音量や音程が自由に出せるようになったけれど、どれも同じ音色でした。同じ音程を同時に鳴らすと波形が打ち消されて音が消えちゃったりもするしね。
FM音源は「音色を作れる、扱える」というのが画期的だったのです。
音色が扱えると、同じメロディーでも音楽に格段に変化がつけられますね。ピコピコ音とは違うぜヘイヘイ。

FM音源は最初はシンセで使われていました。有名な初音ミクのデザインの元になったYAMAHA DX7もその一つで、80年代の楽曲によく使われています。
シンセでは小さい液晶画面でボタンをカチカチ押して音色をエディットするのがすんごく大変なので、YAMAHAさんはMSXと連携して音色をいじれるシステムとか出していました。
アーケードゲームなどでもFM音源チップが使われたものが増えていきました。最初期では海外のマーブルマッドネス(1984年)とか、国内だと戦場の狼(1985年)あたりが嚆矢らしいですね。
FM音源はパソコンにも搭載されるようになります。特に1985年1月発売のPC-8801mkIISRに標準搭載された影響が大きかったと思います。
SRが売れたのはFM音源と関係あるのか?というと、これはあるある!超あります!
88SRって、88mk2がとにかく遅い(画面表示のためにCPUが全力を出せない)という致命的な弱点を改善した上で、ALUによる高速描画とアナログRGB(512色中8色)とFM音源をくっつけたマシンです。

mk2 – 遅くなる要素 + すてきで3倍速いグラフィック + FM音源 = SRだいたいこんな感じです。

「サウンド・オブ・サイエンス」というキャッチコピー共にFM音源搭載をアピールしたPC-8801mk2SRのカタログ

 

ただ、ハードがいくらよくてもソフトがよくないとなかなか普及しないですよね。
ところがのっけからゲームアーツが「テグザー」(1985年)で度肝を抜いたわけです。
テグザーの音楽は五代響さん。
ご存じのとおり、プログラマでもあります。
SRも出たばかりの頃はFM音源の制御方法もこなれてなくて、内蔵音色とか耳に痛い音色とかが多く使われていたように思います。テグザーでもゲーム中はFM音源3音だけしか使ってない (SSGは効果音専用)なんですよね。
その後、颯爽と登場したのが「ザナドゥ・シナリオⅡ」と「ロマンシア」)!我らが古代祐三先生でした。特にロマンシアのオープニングは、それまでの88SRで流れていたものとは数次元違うレベルで奏でられる
ロック調の曲で、「やられた!」という印象が強かったです。
翌年発売された、「イース」と「ソーサリアン」ではSSGも効果的に使ってトドメを刺されます。もうみんなFM音源にメロメロさ!

ザナドゥ・シナリオⅡもロマンシアも、オープニングは別としてゲーム中はFM音源3音だけが使用されており、SSGはやっぱり効果音専用でした。
それがイースやソーサリアンで新しいドライバ(いわゆるMUCOM)をひっさげて、SSGも効果的に使うようになってきたのです。
FM音源でできることはサウンドドライバの作りこみ(機能)で大幅に変わります。より複雑な表現をするために、ドライバは次々に改良を加えられ、どんどん高機能になっていきます。
古代さんがそれまで使っていた同人のドライバSPLITを参考に、ファルコムで木屋さんが独自実装で作ったのがMUCOM。古代さん自身でもドライバを作るようになり、MUCOM88と名づけられ、徳間書店から市販化された時にMusic LALFと名前を変えて進化していきました。

さらに1987年10月に発売されたPC-8801FA/MAでは、より強化されたFM音源、YM2608(OPNA)が採用され、発音数が強化。ADPCMによるデジタルサンプリング(音声の録音・再生)も使用できるようになりました。これに合わせて従来機でも同等の音が出せるオプションボード、みんなだいすき「サウンドボードⅡ」が発売されました。

PC-8801FA/MAでより強化されたFM音源、YM2608(OPNA)

サウンドボードⅡも最初のうちは対応タイトルが少なくて、使い方もパッとしませんでした。サウンドドライバがこなれておらず、せっかくのADPCMも効果音がサンプリングで鳴るくらいの使われ方でした。
そこで我らが古代さんがまたまたブチかましてくれたのが「ザ・スキーム」!
ADPCMばりばりのドラムずんどこ、オケヒがジャン!ギターがギャーン!なわけです。
ノーマル(YM2203)音源だとサウンドボードⅡの曲とはまったく違う曲が鳴る、というのも珍しいところです。

この頃から、時代は徐々に16ビット機へと移行していき、またそれまで高価だったMIDIもDTMとして手頃な価格帯で扱えるようになっていきました。
MIDIの楽曲のクオリティには驚かされましたが、一方でMIDIに触れることで、逆にFM音源の音色の多彩さ、音色づくりの自由度などの魅力を再確認することができたように思います。

令和の時代になっても、現在でもFM音源の楽曲が好き!というファンは多いと思います。30年以上経っても古さを感じさせない魅力を持った音源であると言えましょう。

文:UME-3、編集・協力:ORION80・とまと

潜入レポート・ゲーム保存協会は いかにしてゲームを保存しているのか【GPS Newsバックナンバー】

※【2020年5月発行 GPS News vol.10掲載】本記事はゲーム保存協会の過去の活動を知ってもらうことを目的とし、当時そのままの内容で掲載しています。


ゲーム保存協会の仕事の一つとして挙げられている「ゲームの保存」だが、知らない人であれば“ソフトを入手して適当な場所に保管してオシマイでしょう?”と考えてしまうかもしれない。しかし、実際に行われている作業は、とてつもなく細かで、緻密で、繊細なのだ。今回、特別にゲーム保存協会の本部に潜入し、その一部始終を目で見て確かめることができたので、一連の流れについて詳しく説明していこう。その手順を知れば、どれだけ微に入り細にわたって保存作業が行われているのか、その大変さが分かってもらえるのではないだろうか。

 

STEP1:パッケージの分解と保存

1 ノリを剥がす

今回見ることができたのは、パソコンソフトパッケージの保存方法だ。パッケージにはプラスチックや紙、カセットテープケースなど、さまざまな外装が用いられているが、ここでは1980年代中盤にエニックスのソフトで使用されてきた、紙のパッケージが例として使われた。
最初に行うのは、紙パッケージの分解。箱状のままではかさばるという以外にも、パッケージ全面にイラストが描かれているといった場合、解体することでそれを見られるというメリットもあるため、このような保存方法を採ることにしたそうだ。なお、ノリを剥がすためにはヒートガンを使うのだが、その温度やヒートガンとパッケージまでの距離といった細かいことも、経験から決まっている。

作業が行われているのは、保存協会本部の一室。極めて家庭的な場所だが、一度作業が始まると雰囲気は一変、緊張感に包まれた中で作業が進められていったのが印象的だ。

使用した道具

解体時に使用される道具は、アイロン台、アイロン、半田ごて、へら、シール剥がし、壁紙クリーナーなど。特別なアイテムは使われていないが、集中力が要求される。

2 折り目伸ばし&汚れ取り

無事にノリを除去して解体できたとしても、油断はできない。折れ目にクセがついているため、そのままにしておけば元の状態に戻ってしまうからだ。そこで行われるのが、折り目のクセ取り。折り目の谷折り側から、木製のへらでシワを伸ばすようにゆっくりとなぞっていく。これをすべての谷折りに対して行っていたので、かなり手間のかかる作業と感じた。谷折り側から行うもう一つの理由は、表面のイラストなどに傷を付けないためだそうだ。なるほど、確かに同じ作業を表面で行い絵柄が損なわれてしまったら大変なこと。

木製のへらで、ゆっくりじっくりと折り目を伸ばしていく。地道な作業だが、会話しながら行えるほど気軽なものではないことは、その場にいて感じた。

折り目を伸ばしたところで、パッケージ表面の汚れを拭き取る。値札などが貼ってあれば、シール 剥がしなどを用いて丁寧に除去。この作業も、楽なものではない。

ノリが残った場合は、こうして拭き取る

古いパッケージの場合、どうしても剥がしづらい箇所がでてきてしまう。そんなときはキッチンペーパーを当て、その上から温度を調整した半田ごてで温め、ピンポイントで熱を送り解体する。
接合部分にノリが残っていた場合は、こちらもキッチンペーパーをその部分に置き、上から程々に温めたアイロンで熱を加える。こうすることでノリが緩くなるので、それをキッチンペーパーですかさず拭き取っていく。

3 QRコードを貼り、保存

ノリを綺麗に剥がし、汚れも除去したので保存……と思いきや、その前に大事な作業があるとのこと。何かと思い見ていると、通常は見えないパッケージ裏側に、QRコードを貼り付けていた。これは、パッケージと、パソコンに保存されたデータベースとを紐付ける作業。データベース側には“機種が××用で、メディアは××、発売年は××年、保存場所は××、現在××に貸し出し中。”などの情報が書き込まれており、QRコードをスキャンするだけで、それらの情報を参照することができるようになっていた。これは便利!

パッケージ裏と、それを収納するケースには、QRコードが貼り付けられている。QRコードをスキャンすれば、どこに戻せばいいかといった情報が得られる仕組みだ。

最後に、折り目を完全に伸ばすべく上から重しを載せる。

こうして、完全にクセがなくなったのを確認したところで、専用のボックスに保存。パッケージは、プラスチックのケースへ直接入れるのではなく、紙と紙に挟んでから仕舞う。この紙は、ヨーロッパの美術館などでも保存時に使われているそうだ。

STEP2:パッケージのスキャニング&データベース化

1 スキャニング前の手入れ

ここまでの準備がすべて終わると、ようやくスキャニングの作業に進める。スキャンに使用するのは、ハイスペックPCと業務用スキャナ。やはりスキャンに至るまで、そしてその後の手順が細かかった。
まずは、スキャン作業に入る前に、スキャナのフタを上げてガラス面を綺麗に拭き取るところからスタート。この作業を怠ると、気づかないうちにゴミが紛れ込んでいたりするとのことなので、大事な工程だ。
次が、スキャンするパッケージの拭き取り。こちらは、ブラシでイラスト面を軽く拭き取る程度だ。
これら一連の作業を終えて、始めてスキャナ台にパッケージをセットすることができる。たかがパッケージと思うかもしれないが、そこまで神経を使ってこそ、遺せるデータとなるのだ。

スキャニング前には、丁寧な埃取りが欠かせない。後々まで残すデータになるからこそ、ここまでの細かい部分にこだわっているのだ。

 

2 ただスキャンするのではない

盤面にパッケージを置き、蓋を閉めて“はいスキャン”、ではないというのも注目点だ。パッケージを盤面の目盛りに合わせて配置後、分銅で仮止めする。次に黒紙で上から覆い、さらに薄い銅板でパッケージ全面にテンションをかける。しかし、これで終わりではない。写真の右側に見える『COLOR GUIDE』という辞書並みの重さを持つ本を最終的な重しとして載せ、ここでようやくスキャナのフタを閉じるのだ。さらに、スキャン中に余計な光が入らないよう、スキャナに黒布を被せる徹底ぶり。ここまでして、始めてパソコン上で“スキャン”のボタンを押すことができる。

①分銅で仮置き
あらかじめスキャナ盤面に貼られた目盛りに合わせて配置。

②黒紙を置く
その上から黒紙を置き、裏移りしないように配慮する。

③銅板を載せる
あらかじめスキャナ盤面に貼られた目盛りに合わせて配置。

④黒布で覆う
その上から黒紙を置き、裏移りしないように配慮する。

⑤スキャン
ここまでの手順を行った後に、スキャニングを実行する。その際には、あらかじめ決められたプリセットがあるので、それを適用して行う。忘れると、せっかくスキャンしたデータに統一性がなくなってしまうのだ。

 

3 サイズを計り、データベースへ登録

スキャニング終了後に行うのは、各種サイズの計測。大きさはもちろん、使われている紙の厚さや重さまで計る。これらを調べることで、仮に現物が失われてしまったとしても、後世にパッケージを復元させることが可能になるのだ。ちなみに、紙の厚みは計測する場所によってインクの影響などから異なってくるため、複数地点を調べなければならない。作業の見た目は地味だが、これまでと同じく保存には欠かせない手順となっている。
こうして、すべての作業が終了すると、最後にデータベースへの反映を行う。データベースページには、前のページで紹介したQRコードが紐付けられており、それをスキャンすることで即座に対象項目を表示出来る。記録されるのは、保存状態だけでなく不足品や損傷具合などさまざまだ。

 

重さ

紙パッケージの場合は軽いため、あらかじめ分銅を乗せておき、その重さを含めた重量を調べた後に計算で導く。重さは、0.01g単位まで計測が可能。

厚さ

場所ごとに厚みが異なるので、数カ所チェックする。インクが載っている箇所は、もちろん他よりも厚い。こちらの計測機器では、0.001mmまで計れる。この桁数が調べられる計測機器は、グンと高くなる。

大きさ
パッケージの大きさは、パソコン上のアプリケーション(AdobePhotoshop)を利用して行う。これで、0.1mm単位まで正確にサイズが判明するのだ。

特別インタビュー ボクたちが“こうまでして”保存する意味・意義

ゲーム保存協会・理事長 ルドン ジョゼフ

保存協会はレトロPCしかやってないイメージがあるかもしれませんが、一番劣化が早いもの、あまり手に入らないものから作業しています。そうすると、どうしても日本のPCソフトが優先になります。
今回紹介したパッケージのデジタル化は、納得出来るようなやり方をいろいろ試していました。一番こだわったのが、本当の色を表現すること。デジタルデータがあっても、情報不足や作業方法が変であれば復元が不可能、もしくは手間がかかってしまいますから。一つの作品は一ファイルで管理したいので、スキャンが1度で済むようパッケージは分解していますが、メリットはもう一つあります。何かの理由でもう一度パッケージを作りたいという時に、似たような段ボール紙で印刷し直し、折り目から作り直すこともできます。もちろん、パッケージはダメージのないように展開するので、いつでも元の形に戻せます。
デジタル化は、仮に現物を消失しても復元出来るレベルで情報を残しています。例えば箱の展開図ですが、今は何のために必要なの?と思うかもしれません。しかし後に、展開図から箱の製造方法、製造工場が分かることで、“このゲームはこの地域でこの時代に作っていたもの”という推測もできるようになるかもしれません。将来的に、何の情報が必要になるか分からないので、現時点で持たせられるだけの情報を詰め込んでいます。つまり保存の基準は、現物が失われてもまったく同じものを作れるかどうか、です。
最終的にまとめるデータベースには、各種情報が収められます。これはカタログのようなもので、例えばレコードカタログなら、ジャケットに載っている情報が一カ所にまとまって書かれています。すると、そのページだけで研究ができます。ゲームも同じような形を目指していて、今は内部での入力が行われており、近いうちに誰でもWebページで見られるようになる形を考えています。ただし作業者は、今扱っているものがマニュアルなのかタダの紙切れなのか、そういったことが理解出来ないと、この仕事はできないんです。ボランティアさんにも手伝ってもらっているのですが、資料の数が尋常じゃない。ある程度、専念してやってもらう人を配置しないと終わりません。日本で、これだけの資料を抱えて真面目にやっているところが他にないので、大々的に人を雇って資料を保存していきたいし、それがうまく回れば外に出せる資料も増えていくので、一般の方たちに還元出来る部分も多くなってきます。マンパワーと、場所と予算の十二分な確保が課題ですね。

(取材・文:佐々木 潤)