仏大手新聞社にて当団体が紹介されました

ゲーム保存協会と理事長ジョゼフの日々の活動の様子が、フランス大手新聞社ル・モンドで記事として紹介されました。
テクノロジーに関するニュースを掲載するデジタル版ル・モンド2014年7月17日の記事です。
今回は、このフランス語の記事を翻訳してご紹介いたします。
記事のための取材を受けたのは昨年夏で、協会のメンバー数など記事に書かれている内容は昨年夏の情報のままとなっております。

日本にて、ゲーム保存技術者とともに

 ある団体が、日本の初期のゲームを保存する長く困難な作業に乗り出した。

 「もし何もしなかったら、全てが消えてなくなる運命なのです」、彼の地に移住して13年になるジョゼフ・ルドンは語る。彼は幼い頃から日本のビデオゲームに魅了されてきた。家庭用ゲーム(特にPCエンジン)のみならず、アーケードゲーム(ゲームそのものや筐体などの機器全般)にも関心を寄せており、16歳でパリに出てきたのだが、生まれ故郷エヴィアンにいる頃からすでにゲームは彼にとって第一の関心事だった。日本に行きたいという子供の頃からの夢を実現し2000年に日本にやってきたのだが、その動機は日本のゲームの歴史を研究するためであり、特に日本列島から一度も外に出されたことのないゲーム-ほぼ全ての日本のパソコン用ゲーム-を研究するためだった。
 来日してほどなく、日本では自国のポップカルチャーの保存に十分な関心が払われていないことを知り衝撃を受けた。特にゲームは保存すべき価値があるものとは認識されておらず、1970年代や1980年代の初期のゲーム機の多くが残っていないことを知ったのだ。またその当時使われていた記憶媒体(フロッピーディスクやカセットテープ)は、日本の厳しい気候条件(特に夏は湿度が100%近くに達する)もあり、良好な状態を保つことは困難に思われた。公共機関も民間団体も、ゲームの保存事業に乗り出している様子はみられなかった。
 さらに残念なことに、日本のコレクターの中には保存事業に懐疑的で、自身のコレクションを公にしたくないという考え方も珍しくなかった。これはよくある日本の価値観の一つだが、秘蔵されあまり知られていないレアなものほど、その持ち主にとって高い価値を生み出すという考え方であり、コレクターはしばしばこうした考え方で自身のコレクションを非公開にしておくのだ。それでも、ジョゼフ・ルドンは同じようなゲーム保存の理念を持って日本の文化遺産を保存する必要を感じる日本人、福田と出会った。こうして2011年に彼らはともに『ゲーム保存協会』という、ゲーム保存を目的とした非営利団体を立ち上げたのだ。


写真:東京の住宅地の借家で、ジョゼフは大切にゲームを保管している


写真:協会のラボの一部


写真:協会の建物にある保管室はすでに手狭となってきている


写真:保管容器


写真:ゲーム保存協会がある建物の各部屋には温室時計が壁にかけられている


写真:レアもののスーパーマリオ

 現在この協会には16名のメンバーがいる。第一の狙いはまず、この多種多様な文化を余すことなく正確に記録すること。そして次に、いまだ動作する希少な純正の遺物を収集することだ。東京の住宅地の一角に構えられたラボでおこなわれている彼らの研究で特に印象深いのは、劣化し消滅しつつある古いゲームの保存に用いられる技術の全てである。これらは非常に困難な作業だ。ジョゼフと福田の二人は、よくあるコピー品ではなく完全なオリジナルのみ保存することを絶対のルールとしている。彼らはこうしたゲームを分析・解析し、すでに忘れ去られたテクノロジーについて記録を残し、オリジナルの機器類をデジタル文明黎明期の遺物を探る考古学者のように修復保存する。


写真:ゲーム保存協会はゲームのパッケージや説明書などの保存活動もおこなっている


写真:協会メンバーの一人、松原圭吾は、日本のゲームに関連する全ての書籍と雑誌をコレクションしている


写真:協会の書籍と雑誌のコレクションの一部


写真:大型ゲームセンターの傍らで、レトロゲームを扱うゲームセンターは懐古趣味をもつ日本人を惹きつける


写真:貴重なお宝を求め、ジョゼフは日々、中古屋を巡り歩く


写真:理事の一人である小林正国は、自らも中古販売の会社を立ち上げており、資料の収集をおこなっている


写真:ゲーム保存協会のラボでは保存作業ができる専門の技術者を集めているが、それだけでなくこれから技術を学びたいと考える意欲的な人々も集まってくる


写真:関連会社はすでになく、基板や関連機器は全て、手作業で復元される


写真:カセットテープ版のゲームが入った箱

 こうした活動の中で彼らが誇りに思うような成果も出ている。たとえば秋葉原にあるレトロゲームが遊べるゲームセンター『ナツゲーミュージアム』に行き、デコカセ(データイースト社が1980年代に開発したシステム)と呼ばれる、彼らが修復に成功したゲームで遊ぶことは彼らが誇れる成果の一つだ。「愛着を持って修復するんだ、あたかも1920年代のレトロカーBugattiを修復するようにね」、ジョゼフは語る。ニューヨークの近代美術館によるビデオゲーム・コレクションの購入は、彼らがライフワークと捉えているゲーム保存活動の追い風だ。ジョゼフはしばしば、浮世絵を例に挙げる。この『浮世を写す絵』は、西洋人がコレクションをはじめるまで日本では保存すべきものとは考えられていなかった。しかし今日、浮世絵は国宝と考えられるようになっている。


写真:ジョゼフは、ゲーム保存協会が修復したデコカセを置くナツゲーミュージアムに、しばしば遊びに行く


写真:多くの若い世代には忘れ去られているが、古いゲームは秋葉原のいくつかのゲームセンターで遊ぶことができ、懐古趣味をもつ日本人を魅了している


写真:名古屋近郊のジェネシスというバーには、レトロゲームマニアが集まる

元の記事:Au Japon, avec les conservateurs de jeux vidéo
記者:Nicolas Datiche

歴史に埋もれたメディア

過去にゲームやアプリケーションが記録されているメディアと言えばフロッピーディスク、カセットテープなどの磁気メディアやロムカートリッジが使用されていました。フロッピーディスクでは8インチや5.25インチ、3.5インチが一般的ですし、カセットテープでは一般的なオーディオなどにも使用される形状のものでしょうか。
しかし歴史に埋もれてしまったメディアもあります。3インチのフロッピーディスクはその一つです。シャープのPC(X1D)で採用され、今年3月に残念ながら解散となったハドソンの有名なアドベンチャーゲーム「デゼニランド」が国内初の3インチメディアを利用したゲームとして発売されました。当時3インチには多くのユーザーが期待していましたが、結局3.5インチや安価となった5.25インチなどのディスクが普及したことで影を潜めてしまいました。 余談ですが、不思議なことでヨーロッパでは広く普及し、AmstradCPCやZX Spectrumなどでは長く愛されるメディアになりました。

一方、磁気テープには殆ど知られることなく埋もれてしまった不思議な存在、「ミニデータカセット」があります。 欧州フィリップスの「ミニカセット」から、米国ヒューレットパッカード(HP)がデータ保存の為に考案したメディアです。 一見すると中のテープは通常のオーディオ用テープですが、カセットのサイズがマイクロカセットに近いものです。
一般的なカセットテープと異なり磁気テープの先頭にインデックスホールがあり、データがセクター毎に分割されて保存されています。さらにはCRCによるリードチェックを行い、エラー時にはそのセクターの再リードできるなど、フロッピーディスクの技術をテープに置き換えたような存在でした。 国内では70年代後半にティアックがそのテクノロジーを利用して、通常のオーディオテープに近い形態としてサーバーやシンセサイザー用のバックアップ機に応用されました。どちらも業務用の高価な機器でゲームのメディアとして使われなかったはずでした。

ところが、あるアーケードゲーム会社が自社ゲームをコピーされない基板として発売するため、これを利用することにしました。 単純にカセットをコピーしただけでは動作出来ないようデータに暗号化を行い、さらにゲーム起動するためにドングルというデバイスを追加する必要があるように作成しました。
そして遂にアーケードゲームシステム「デコカセ」と言う非常に珍しい存在が生まれました(データイーストコーポレーションカセットシステムの略)。アーケードゲーム業界で磁気テープを利用するシステムは恐らくこのシステムだけでしょう。 当初はミニデータカセットと一般的なオーディオテープのサイズだったデータカセット(一般的に「大カセ」(ダイカセ)と呼ばれています)の両者が存在していていました。ただし「大カセ」は通常のカセットテープレコーダーでコピーが可能であるためすぐに消滅しました。 最初のデコカセシステムは筐体と一体となった形で販売、流通していましたが、「大カセ」が消滅した後に置き換えの出来るシステムとして再設計されました。

1980年12月のシステムと同時にリリースされたマンハッタン、そして1981年にリリースされたプロゴルフ(恐らく初のゴルフゲーム)で人気が高まりました。 システム基板(3枚組)の価格が当時としては高価ではありましたが、その後にテープとドングルの組み合わせで販売されたゲームは比較的安価であり、基板をすべて交換しなければ新しいゲームに入れ換えることが出来なかったアーケード業界では歓迎されました。
このような形でゲームの入れ換えが可能なシステムは、アーケード業界では「デコカセ」が恐らく初めてであったと思われます。 息が長く非常に多くのタイトルがリリースされたことでも有名なシステム基板であり、1985年まで50タイトルほどのリリースがありました。 他の印象的なタイトルと言えば、トレジャーアイランド、プロテニス、ハンバーガー、バーニン’ラバー、スケーター、ラッパッパなどなど、枚挙に暇がありません。

一方で当時でもテープデッキが不安定であることやテープの早い劣化によりゲームが起動できなくなることが多く、評判が良くない一面もありました。 このため海外向けの流通に際しては、圧力から一番人気のあったタイトルをロム基板化してリリースしました。当然その基板はコピーされて、折角のコピー困難な技術が無意味となってしまいました。 しかしロム基板とされず、テープのみでリリースされたタイトルが少なくありません。残念なことに、これら殆どテープは劣化による故障や時間と共に飽きられ人気が無くなることで、ゲームセンターから消滅し殆どが廃棄処分されてしまいました。

デコカセは歴史的に重要なシステムであり、ゲーム保存協会は多くのアーケードゲームを整備・保存されている高井商会様と協力しながら保存研究に入りました。 およそ14ヶ月の間、高度な技術を所有されている多くの方々から協力、支援を頂き、一つの目標へ到達しました。 代替パーツを作成することでデッキの修理や保守が可能となり、テープも劣化部分を修復し、リマスターも可能となりました。 多くの貴重なタイトルが未来へ救われたと言えます。 今回のデコカセを通じて高井商会様とはアーケードゲームに関する保存や情報の共有を協力させていただくこととなりました。

動作困難となっているデコカセ(カセットテープを含めて)を所有されていられる方がいらっしゃいましたら、必要なパーツ代などの実費のみで修理対応させていただきますのでご連絡下さい。

ゲーム保存協会 ルドン

高井商会さんホームページ: http://www.ampress.co.jp/takaishokai/takaishokai.htm

ゲームを捨てないで!

先日10月25日、両国にある江戸東京博物館内で、情報保存研究会のシンポジウムが開催されました。
無料の催しで、資料保存に関係する多くの方、企業や団体の方々が参加されるイベントです。
ゲーム保存協会も資料の保存が日々の仕事、ぜひ他の方々の取組みを拝見させていただこうと会場に向かいました。

今回初めて参加させていただいたこのシンポジウムで一番印象深かったことは、皆さんの資料保存に対する姿勢です。
アーカイブには様々なタイプがあり、個々の皆様の取組みも十人十色、それでも、全員が一致して、未来に資料を残すという使命感のもと必死に取り組んでおられることが伝わってきました。ゲームも古文書も掛軸も、ものが何であっても、将来この資料を使う研究者のために一つでも多くのものを残したい、という気持ちは同じです。
シンポジウムでは3月の大震災で被害にあった資料の救援など興味深いお話もあり、地元の人と協力して資料を扱い、デジタル保存したものは必ず地元にコピーを置くことで還元するという取組みで、文化や歴史を残すことの大切さを多くの人に広めることにも繋がっている例など、示唆深い内容でした。

お願いです、みなさん古いゲームを簡単に捨てないでください。
20世紀の文化を後世に残すには、お手元にあるゲーム資料が必要です。
多くの企業は倒産や合併や移転で、当時の開発資料や製品そのものを処分したり紛失したりしています。企業にある場合は、どうぞ大切に保管保存をするよう取り組んでください。個々のご家庭にあるものについては、カビなどに気をつけ保管し、保存について専門的技術が必要であればご相談ください。私たちは保管、そしてソフトウェア自体の内容を正確に残す高度なマイグレーション技術を持っています。ご相談いただければ、ゲームに限らず様々なところで、過去の文化を残す取組みに貢献できると思います。

そしてすでにゲームの保存や保管に関心を持っている方々は、改めて、どうか全ての資料を残す努力を続けてください。
何が資料的価値をもつのかは、私たちではなく未来が決めます。
売れたからとっておこう、とか、有名だからとっておこう、だけではなく、関係するあらゆるものをできる限り保存する努力をしてください。
私たちゲーム保存協会では、家庭用ゲーム機などのコンシューマ関連だけではなく、アーケードやPCなど、できる限り多くの種類のゲーム資料を集めて保管保存しています。
保存作業の優先順位をつけるのであれば、それは資料的価値ではなく、資料そのものの劣化速度にあわせて考えてください。
コンシューマ関連のROMカセットなどは耐久年数が比較的高いです。一部CD-Rなど不安なものもありますので、手遅れになる前に正確なマイグレーション技術を開発する必要がありますが、まだ少し時間の余裕があります。それに比して主にPCのゲーム資料に多いフロッピーディスク、アーケードの基板などは非常に繊細で劣化が速いです。ゲーム保存協会でも優先に作業を行っていますが、一人の作業者が使える時間には限りがあります。
どうかゲームに関する研究をされている方々、ゲームに関わる企業の方々、ゲームの歴史を残すために助力いただける皆様は、劣化と向き合い、未来の文化研究家のために脆弱な資料から順に丁寧な保存作業を進めてください。

実際の資料保存の方法や、マイグレーションに関する注意事項などは、今後順次ゲーム保存協会の団体ホームページ及び掲示板で公開していきたいと思います。
また、よりよい技術や優れた方法があればぜひ皆様からもご助力いただきたいのです。

資料の保存は一人の力だけではできません。特殊な専門領域間の連携や自由な情報交換、そして人々の協力があってはじめて達成できます。まだまだ文化財という意識で取り扱われることの少ないゲームですが、100年後、きっとこの資料を使って20世紀の歴史を研究する人が出てきます。この資料を活用して、当時の文化の変遷を学ぶ人たちが現れます。
一人でも多くの方とこの意識を共有し、資料の保存に取り組みたいと思うので、ひとつでも多くのゲームが残せるよう、ご協力をお願いいたします。

ゲーム保存協会 辻

情報保存研究会さんホームページ: http://e-jhk.com/html/