Zipang

21世紀のジャポニスム ――エロゲーも文化だ!(前編) ――
ゲーム保存協会の名物理事長、フランス人ジョゼフが語る本当のクール・ジャパン

ジパング伝説

ヨーロッパの人々は、古くから遥かなる東洋への強い憧れと尊敬の念を抱いてきました。ヴァカンスで日本に遊びに行くというとフランス人の友人たちは羨ましがって話を聞きたがりますし、日本人の繊細さや奥ゆかしさは時にガサツなヨーロッパ人の目にはとても新鮮で美しいものにうつります。

16世紀初頭にマルコ・ポーロが伝えた「黄金の国ジパング」の噂は、長いこと西洋人の間で語り継がれていましたが、やがて20世紀初頭のパリ万博で実際に日本の風物が紹介されるにいたって、爆発的人気となりヨーロッパ各国に大日本ブームを巻き起こします。マネやゴッホといった名だたる絵画の巨匠が目を凝らした極彩色の浮世絵、ドビュッシーらが耳を凝らした異国の旋法。19世紀末から20世紀にかけてヨーロッパの文化人らを熱狂させた浮世絵や能、歌舞伎といった日本の伝統文化伝統芸能は、21世紀の今でも多くの人々を刺激し続けており、ジャポニスムは今もまだ健在です。

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フィンセント・ファン・ゴッホ、「Amandiers en Fleurs」(1890年)


 

新しいジャポニスム「グレンダイザー」?!

さて、屏風に三味線といった日本の風物は大変に美しく魅力的ですが、日に何便もの飛行機が行き交うようになった20世紀後半、フランスにはそれまで伝えられることのなかった新たな日本文化がやってきます。そう、日本のアニメです。

僕がまだ子どもの頃のお話し、1978年にフランスで「UFOロボ  グレンダイザー」劇場版の映画上映がありました。何の因果でしょうか、日本では今ひとつヒットしなかったこのマジンガーZのシリーズ3作目がフランスでは異常にヒットしました。映画版だけでなくTVシリーズの放映もすぐに決定。フランス語吹き替え版グレンダイザーは全国のお茶の間に届けられるはこびに。当時幼稚園児だった僕も、グレンダイザーの技を大声で連呼し学校の先生に怒られるほどハマってしまいました。実際、グレンダイザーはフランス国内で今でもカルトな人気があり、劇場版主題歌はフランス語に吹き返られて135万枚の大ヒット、JASRACが海外でもっとも稼いだタイトルの一つとなりました。ちなみにフランスではグレンダイザーはGoldorakというタイトルで知られています。

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UFO ロボ グレンダイザー、フランスの劇場版のポスター


 

昭和のヒーロー次々にヨーロッパ上陸

グレンダイザーのヒットは、それだけで終わりませんでした。グレンダイザーがウケるのなら、他もウケるに違いない。次々と日本のアニメシリーズの吹き替えが作られフランスに渡ります。「キャンディ・キャンディ」に「キャプテンハーロック」など様々なシリーズが放映されました。特にハーロック人気は高く、原作の松本零士はフランスでは有名人、あのダフトパンクもインターステラ5555でコラボレーションをしています。また「太陽の子エステバン」や「宇宙伝説ユリシーズ31」など、フランスが日本にわざわざ自国での放映用に制作を依頼したタイトルも存在します。

当時日本のちびっ子を沸かせた昭和のヒーロー・ヒロイン海外進出の波はアニメだけにとどまらず、ついには「海外で受け入れられるの?!」と思うような戦隊モノまでやってきて、これも何故だかやっぱりヒットします。バイオマンは今でも会話のネタになりますし、宇宙刑事ギャバンも大人気、「宇宙からのメッセージ・銀河大戦」は「San Ku Kaï」というタイトルでもはやフランスの国民的存在です。

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太陽の子エステバン、フランス版のレコードのジャケット


 

ヒットの秘訣はガイジン目線!

マネやゴッホの20世紀ジャポニスムもフランス人が中心となってヨーロッパ各国に広がって行きましたが、いまや懐かし昭和アニメや戦隊ものといった新しいタイプの日本ブームもヨーロッパ各国に広がっていきます。一つ強調しておきたいのは、ヨーロッパへの日本の“文化輸出”の多くは、西洋人側の積極的な輸入が原動力になっていることが多い点です。日本人が「海外でヒットするだろう」といって売ってくるものではなく、所謂“ガイジン”である私たちが勝手に面白いと思って日本から引っ張ってくるというケース。

日本は今、クール・ジャパンという標語で自国文化の海外輸出に力を入れていますが、そもそも海外で何がヒットするのか一番知っているのは消費の主体“ガイジン”の側ではないでしょうか。日本人が考える「面白い日本」と海外から見た「面白い日本」は必ずしもイコールではありません。70年代以降の日本アニメ海外ヒットのラインナップを見ても、日本で人気がありヒットするだろうと見込まれた作品がヨーロッパでまったくヒットせず(ルパン三世や手塚治虫はフランスでは人気がありません)、逆に日本でまったくヒットしなかったものが海外で何故だか大人気となる例が沢山あります。

100年前のジャポニスムでも、例えば浮世絵は日本側では輸出品としての価値を当初は感じていなかったにも関わらず、ヨーロッパでは大ブームになりました。歴史は繰り返すのです。

 

 

「遺す」文化と「片付ける」文化

浮世絵からアニメまで、日本ではあまり高い価値がなかったものがヨーロッパに入ってから「日本らしさを表現するすばらしい文化」として西洋で珍重され保存されるパターンは何世紀にもわたって繰り返されています。日本で価値がないといわれ破棄されているものでも、ヨーロッパの人々は大切に保存し、アートとして次世代に遺すということがよくあります。

昭和のアニメシリーズは現在、保管場所やフィルム代節約といった様々な理由から日本のテレビ局には原版が存在しないものが沢山あり、DVD化や再放映をするためにヨーロッパから逆輸入することが度々あるそうです。使い終わったものを「片付ける」文化と、あるものは全て「遺す」ことに義務を感じる文化、これは日本と西洋の生き方の違いのような気がします。

ヨーロッパの人たちはどんなものであっても人が作り享受するものを作品として尊重し、遺すべきだと考えます。誰か一人でもそれをアートとして認めたなら、それはもう立派なアートで大切に保管すべき作品になります。たとえ全員が同じように価値を認めてなかったとしても後世のためにとっておくこと自体が大事なことです。古いフィルム、古い絵画、古い建築物、ヨーロッパには何世紀もかけて人々が残してきた文化的遺物が蓄積しており、そうした文化財は現在では観光や文化力として国のパワーになっています。

日本では古くなったものは新しいものに置き換え、多くの人が価値を認め文化として捉えない限り作品としてオリジナルを遺しておこうという動きが起こりません。価値を認めてもらえなかったものや、文化表現として受け入れられなかったものは容赦なく廃棄されることがとても多いように思います。

(後編へ続く)

ゲーム保存協会 ルドン

ゲーム保存協会 Game Preservation Society

ハードウエアの保存とエミュレーション技術について

■ご挨拶

ゲーム保存協会の堀井です。

このページをご覧の方はご存知だと思いますが、当協会は名前の通りゲームの保存、その中でもマイクロプロセッサを使ったゲームの保存にスポットを当てて活動しており、ゲームソフトだろうがゲーム機だろうがパソコンだろうが、可能な限り欠かすことなく、保存し未来に残していくことをポリシーとして、日々活動しています。

今回は、その保存する手法の一つである「エミュレーション」という技術について、お話してみようと思います。

 

■ソフトウエアとハードウエア

一部の例外※を除けば、ゲームはゲームのプログラムが書かれたアプリケーション側であるソフトウエアと、そのソフトウエアを走らせるハードウエアに分けて考えることができます。

物理的な回路で作られている部分がハードウエア、その上で動くプログラムがソフトウエアで、もし音楽に例えることが許されるなら、楽譜がソフトウエア、楽器がハードウエアに当たると思います。

 

録音技術が普及する以前、楽譜と楽器を組み合わせて残していくことで、人が音楽を伝え続けてきた様に、ゲームもソフトウエアとハードウエアを残していく事ができれば、ゲームを体験する環境そのものを未来に伝えていくことが可能になる筈です。

今回お話する「エミュレーション」という手法は楽器側、即ちハードウエアを保存していく手法の一つになります。

※最初期のゲームは回路そのものでゲームのロジックを記述していました。

 

■ハードウエアを残す手段とエミュレーション

ハードウエアの保存は、当時リリースされていた実物をメンテナンスしつつ残す方法や互換性をもったハードウエアを製作する等がありますが、後者の旧世代のハードウエアのアプリケーションを動かす仕組みを上位互換機能といいます。

MSX2でMSX1のゲームを、PlayStation2でPlayStationのゲームを遊んだりした経験がある方も多いと思いますが、新しいハードウエアの中に旧来のハードウエアと同等のものを組み込み、その部分を使って、以前のハードウエアに向けて書かれたゲームを含めたソフトウエアを動作させる手法で、これらがハードウエアによる上位互換という仕組みです。

対して、エミュレーションというのは、ハードウエアの構造をソフトウエアとして記述し再現する技術です。

近年ではハードウエアの仮想化などという言葉で耳にした方も多いかもしれませんし、ゲーム機に於いてもハードウエアによる上位互換機能ではなく、エミュレーションソフトウエアによるソフトウエアでの上位互換機能を実現している事例もある様です。

 

■エミュレーションという技術について

エミュレーションという技術は、簡単にいえばターゲットマシンのハードウエアの機能をソフトウエア化して代替する手法です。

ターゲットマシンに搭載されているプロセッサ周り、画像表示や音源、各種I/O等をソフトウエア化し、ターゲットマシン上で動いている筈のアプリケーションソフトがターゲットマシンに対して行う各種アクセスをエミュレーションソフトウエア側で受け取り、適切な処理を返し、あたかも実際のターゲットマシンがその場にあるかのような振る舞いをします。

また、エミュレーションソフトウエアの場合、ターゲットマシンのソフトウエアを何かしらの方法でハードディスク等の別のメディアに移して実行される事が多いですが、通常ターゲットマシンの挙動を可能な限り厳密に再現する実装を行うので、エミュレーターを実行しているマシンに、USB等を使った何らかの形でFDDやROMスロット等のデバイスを装着した場合、ターゲットマシンの実ゲームソフトを直接実行する様に作る事も可能です。

 

■可能になること、ならないこと

実機を維持できる事が理想ではありますが、部品調達等の事情で維持が困難になった場合の次善の案として、エミュレーションによる代替環境の構築は大きな選択肢になるだろうと私は考えています。

更にソフトウエアで構築されているので、移植作業という手間こそ伴うものの、未来のハードウエアで動かす事も現実的です。エミュレーションソフトを移植せずとも、動いていたハードウエアを未来のハードウエア上でエミュレーションすれば、多段重ねのエミュレーションで同じ結果を得る事も理論上可能です。

ですが、この手法で万全かと言われるとそうではなく、実機と全く同じ挙動をするエミュレーションソフトウエアを作ろうした場合、実機に搭載されている数々のデバイスの詳細な仕様書や回路図はもちろんのこと、実機と照らし合わせたそれらの資料についての検証も必要になり、万全と思えるところに至るには膨大な作業を必要とします。

その上、ある程度の再現を目指してエミュレーションソフトウエアを書く場合でも大雑把に実機のパフォーマンスに比して10倍程度の演算資源が必要となります。

また、エミュレーション環境を整えることができたとしても、アウトプットの環境は常に変わっていきます。大きなところでいえば、ここ10年でブラウン管のモニターは激減しましたし、液晶パネルの質も大きく向上しました。

ブラウン管へのアナログ入力による滲みを前提に表現された絵や、液晶パネルの反応速度の遅さを逆手にとった表現を、今日、目にすることは容易ではありません。

駆け足ではありますが、以上がエミュレーションという手法の枠組みになります。

私は、エミュレーションという技術のこれらメリットデメリットを踏まえても、日々台数が失われていく一方のハードウエアの保存という目的に対しては、恩恵の方が断然大きいと考えています。

 

■最後に

つらつらと勢いにまかせて書いてみましたが、如何でしたでしょうか?

年間を通して公私の区別なく日々エミュレーション技術に触れている私ですが、実機そのものの維持ではない仮想化という手法でハードウエアを保存するにしても、ハードウエアを構成する膨大な資料をしっかり集めて検証していかない事には仮想化でハードウエアを残すことすらままならないという、なんとも当たり前で大きな課題に戦慄する毎日を送っています。

特にアーケードゲーム機や家庭用ゲーム機のハードウエアは、汎用部品ではなく、それぞれ固有のデバイスを設計し、それらを組み合わせて作られている事も多く、調査や資料の収集は一筋縄ではいきません。

高い山ではありますが、少しずつでも調査収集を進めていきたいと思っています。

ハードウエアを修理するにしても、エミュレーションソフトウエアを書くにしても、足場固めを避けて通る訳にはいかないのですから。

今後とも皆さんのご支援ご助力をいただければ嬉しいです。

ゲーム保存協会 堀井

 

ゲーム保存協会本部資料室開放のお知らせ

うららかな春の訪れとなりましたが、皆様いかがお過ごしでしょうか。本日はゲーム保存協会から嬉しいお知らせです。
このたび東京都にあるゲーム保存協会本部内にて「ゲーム資料室」をオープンいたしました。1976年から94年までのPC関連の雑誌資料を配した、ゲームの研究をされる方々にご利用いただける図書室となっております。書架に並べられている雑誌はログイン、コンプティーク、ポプコム、テクノポリス、Oh!シリーズなど、約2200冊以上。国会図書館が所蔵していない資料もございます。団体ではそのほかにも保有している資料がございますが、現時点ではPC関連の雑誌のみの公開となっており、研究のためにここを必要とする方に無料で開放しております。
80年代を中心としたビデオゲームの歴史研究はまだまだ発展途上の段階です。沢山の研究者が活発に活動を続けることで、この分野が学問としてより一層活気付き豊かになることを願い、ささやかではございますが資料の一部を公開し多くの研究者の需要に応えてききたく努力いたします。
資料室の使用方法については下記に詳細を載せております。
資料室書架の雑誌にはまだまだ欠品が多く(特にテクノポリスと月刊アスキー)、付録も揃えることは大変ではありますが、今後も継続して充実した資料室作りに努めます。
一人でも多くの方のお役に立てるよう頑張りますので、今後ともどうぞよろしくお願い致します。

ゲーム保存協会 ルドン

資料室について

目的
当資料室はゲーム文化研究の振興と研究者の育成を目的として開設されました。一般の図書館等で手に入りにくい資料をより多くの人に活用してもらい、次世代の研究者に研究の機会を提供します。
所蔵資料
現在、資料のデータベースを作成しておりますが閲覧可能な雑誌のリストをご確認下さい(クリックしますと新しいウィンドウが開きます):

●ゲーム保存協会資料室閲覧可能リスト

利用条件
ゲームに関連する事象を研究する正規の研究者あるいは学生、ゲームに関連するホームページの作者、ゲームに関する記事を執筆するジャーナリストや同人誌のライター。
NPO法人ゲーム保存協会会員(サポーター・正会員)で、協会内のプロジェクト遂行上、資料を必要とする者。

所在地
東急大井町線 尾山台駅より徒歩15分、等々力駅より徒歩15分、自由が丘駅よりバスにて15分
利用方法
こちらのフォームより必要事項をご記入の上、施設利用のご予約をお願い致します:

アーカイブ利用の予約フォーム


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